読書感想8.2. ふりかえり Retrospective8. Trial&Error

Min Jin Lee ”Pachinko”/D読書会用の質問⑬~⑯(恥、民族、繁栄、環境)

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読書感想
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ミン・ジン・リー「パチンコ」を読みました。英語版巻末についていた読書グループガイドの質問リストを基に、自分の考えを記述します。(備忘記録と思考整理のため。邦訳は読んでいないため、英文の日本語訳は拙訳です)
質問は全部で19個。今回は質問⑬~⑯(恥、民族、繁栄、環境)までを取り上げます。(ネタバレもありますので、ご了承ください)

読書ガイドのもくじ

A質問①~②(歴史、愛)
B質問③~⑦(勇気、父、家、結婚、性)
C質問⑧~⑫(生、血縁、女、美、伝統)
D質問⑬~⑯(恥、民族、繁栄、環境) ←いまここ
E質問⑰~⑲(親子、死、題名)

読書ガイド 質問⑬~⑯

⑬【恥】Many of the main characters struggle with shame throughout their lives, whether due to their ethnicity, family, life choices, or other factors. How does shame deive both their successes and failures?
ほとんどの登場人物が、民族、家族、人生の選択など、理由は異なっても、生涯を通じて恥ずかしさに苦しんでいる。恥は登場人物の成功と失敗についてどのように作用しているか?

異なる文化と接し比較し始め、自分の環境が他者より劣っているのではないかという疑いを自覚した瞬間に、恥を感じる。恥を強力に意識したことにより、ノアは貧困から這い上がる手段として勉強にいそしみ大学に進学できた。モザスは兄ノアとは異なる方法で日本人に負けまいと必死に働き事業を成功させる。エツコは失敗した結婚生活を恥じ、努力して経営者となる。主人公サンジャはハンスを愛したことに恥を感じているが、それによって子どもたちを立派に育てる気力を得た。

一方で、自分の血筋を恥じて嫌悪しすぎたノアや、エツコの娘ハナは自ら破滅への道を選択してしまう。ところがハナと同様に、母親を嫌悪し恥じていたユミ(モザスの妻)は、そのコンプレックスから夢の国アメリカに住んで幸福を得るという夢を描き、学び働くことで幸福な家庭をつくる。

恥の意識は、プラスにもマイナスにも強力に働く諸刃の剣として作用している。

⑭【民族】The terms “good Korean” and “good Japanese” are used many times throughout the book. What does it mean to be a “good Korean”? A “good Japanese”?
「良い韓国人」「良い日本人」という用語が、物語で頻出するが、それは具体的にどんな意味だろうか。

一般的には、どちらも、社会が求める理想的な人間像を体現できているかどうかによって「良い」と判断されるだろう。しかし、この物語の場合は基準が異なる。

登場人物である在日韓国人たちが使った「良い韓国人」になることは、日本人に因縁をつけられないために最重要な課題だった。学校や職場でも、日本人なら何も文句がつけられなくても、韓国人は少しでも瑕疵があれば、咎められるという環境に彼らは萎縮しており、少しでも不正を行えば全ての努力が水泡に帰すことを熟知していた。

一方で、彼ら在日韓国人の目線からみた「良い日本人」とは国籍によって差別をしない、韓国人であっても日本人と同じように扱ってくれる人々を意味する。多くの日本人は外国人を自分たちとは明らかに異なるものとして考え、対等な関係を築くことが難しいことが多い。

⑮【繁栄】”Both men had made money from chance and fear and loneliness.” Pachinko begins with the family of a humble fisherman that, through the generations–and through times of poverty, violence, and extreme discrimination–gains wealth and success. What were the ways in which the family managed to not only survive, but also eventually thrive? What is the relationship among money, race, power, and class?
「どちらの男も、偶然の機会、恐れ、孤独からお金を稼いだ」(第3部11章) この物語は、謙虚な漁師の家族から始まる。サンジャの一族は、貧困、暴力、そして極端な差別の時代を生き延び、やがて富と成功を手に入れる。この一族が生き残るだけでなく、最終的に繁栄できた方法は何だったか。お金、人種、権力、階級はどのように関係するか。

父母から質実剛健な生き方を学んだサンジャは、自身も一生を通じてその姿勢を貫こうとする。女手ひとつで、貧困に苦しみながらも自分たちを育て上げた母サンジャの背中を見て育った二人の息子ノア、モザスにも、その精神は受け継がれた。在日韓国人として差別を受け、厳しい環境にありながらも、自分を厳しく律して、安易な道に逃げようとしない兄弟は、勤勉に働き経済的なゆとりを手に入れる。

モザスの息子サムエルは、幼少期に母を事故で失くしたが、周囲の愛情に育まれて育つ。父の事業が成功しているため経済的にも裕福であり、一流大学で学び一流企業に就職する。

紆余曲折があっても、自分を偽らず、他人を傷つけず、自分を愛してくれた人々を信じて大切にした結果が、この一族に繁栄をもたらした。その意味で、お金、人種、権力、階級は主人公サンジャにとっては、大きな意味を持たない。

⑯【環境】”Wherever he went, the news of his mother’s death preceded him, wrapping the child in a kind of protective cloud; teachers and mothers of his friends were watchful on his behalf.” In what other ways does death act as a “protective cloud” in this novel?
「サムエルがどこへ行ったとしても、人々に母親(ユミ)の不遇な事故死を思い起こさせ、みんながサムエルを外界の危険から守る空気、保護膜のようなものを作り出した。先生やサムエルの友人の母親たちは、大切に彼を見守ったのだ」(第3部3章)この物語では、死は他にどのような方法で「保護膜」として機能しているか?

複数の死が描かれているが、読者に最も強力な印象を与えるのは、サンジャの父親フニではないか。彼は生前、人並み以上にサンジャを愛した。父に愛されて育った娘は、彼の死後も常に自分が守られていたことを感謝しており、それが彼女自身の強さに繋がっている。また、サンジャの夫イサクも同様に、病に倒れるが彼との思い出は、長男ノアを学業に集中させる力をもたらした。

原文の”protective cloud”は旧約聖書の出エジプト記を思い起こさせる。作者は、神が民を導き守ったように、物語の登場人物たちもまた、この世を去っても愛する人々を守ろうとしていることを描いた。

And the LORD went before them by day in a pillar of a cloud, to lead them the way; and by night in a pillar of fire, to give them light; to go by day and night: …主は彼らに先立って進み、昼は雲の柱をもって導き、夜は火の柱をもって彼らを照らされたので、彼らは昼も夜も更新することができた。昼は雲の柱が、夜は火の柱が、民の先頭を離れることはなかった。

Exodus 13:21,22 旧約聖書 出エジプト記13:21,22

次回はE質問⑰~⑲(親子、死、題名)を取り上げます。ようやく次回が最終回です。

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