ミン・ジン・リー「パチンコ」を読みました。英語版巻末についていた読書グループガイドの質問リストを基に、自分の考えを記述します。(備忘記録と思考整理のため。邦訳は読んでいないため、英文の日本語訳は拙訳です)
今回ようやく最終回!質問⑰~⑲(親子、死、題名)を取り上げます(ネタバレもありますので、ご了承ください)。
読書ガイドのもくじ
A質問①~②(歴史、愛)
B質問③~⑦(勇気、父、家、結婚、性)
C質問⑧~⑫(生、血縁、女、美、伝統)
D質問⑬~⑯(恥、民族、繁栄、環境)
E質問⑰~⑲(親子、死、題名) ←いまここ
読書ガイド 質問⑰~⑲
⑰【親子】Compare the many parent-child relationships in the novel. How do they differ across families and generations? What hopes and dreams does each parent hold for their children–and are these hopes rewarded?
物語に登場する多くの親子関係を比較してみよう。家族や世代間でどのように異なるだろうか。親は子供にどのような希望と夢を抱いているだろうか。その希望は報われるのだろうか。
物語に登場する四つの世代を比較してみる。貧乏でも愛情あふれる一家もあれば、裕福で表面だけで家族としての繫がりを保っている一家もある。子どもに自分と同じ苦労をさせまいと努力し、それが報われる親もいる。親が救いの手を差し伸べ、幸せを願っても、親を憎み、自分の運命を呪って破滅の道を突き進む子もいる。
第一世代:フニとヤンジン、ヨセブとキャンヒ、ハンス一家
第二世代:サンジャとイサク、トトヤマ父一家
第三世代:ノア一家、モザスとユミ、ハルキとアヤメ
第四世代:サモエルとフィービー、エツコと娘ハナ
世代 | A | B | C | D |
---|---|---|---|---|
第一 | フニとヤンジン | ヨセブとキャンヒ | ハンス一家(妻日本人+夫韓国人) | |
第二 | サンジャとイサク | トトヤマ父一家(日本人) | ||
第三 | モザスとユミ | ノア一家(妻日本人+夫韓国人) | ハルキとアヤメ(日本人) | |
第四 | サモエルとフィービー | エツコと娘ハナ(日本人) |
この表を作るまでユミは名前から日本人だと思っていたけれど、アメリカに行ったら日本に再入国ができないと語られていたので韓国人だったのだろう。
エツコは第三世代だが彼女の夫はほとんど登場せず、娘のハナがサモエルに関係する第三部の主要登場人物のひとりなので第四世代とした。
分類 | 経済状況 | 愛情 | 子ども | 希望 |
---|---|---|---|---|
第一A,第二A | 貧乏 | あり | あり | 報われた |
第一B | 貧乏 | あり | なし | N/A |
第一C,第三C | 裕福 | 表面上 | あり | 描かれず |
第二D | 裕福 | あり | あり(障害) | 報われた |
第三D | 裕福 | 表面上(LGBT) | なし | N/A |
第三B | 貧乏⇒裕福 | あり | あり | 報われた |
第四D | 貧乏⇒裕福 | なし | あり | 報われず |
第四B | 裕福 | あり | なし | N/A |
貧乏だが愛情あふれる家庭。子どもあり:第一A,第二A
貧乏だが夫婦愛がある。子どもなし:第一B
裕福。表面上の夫婦愛。子どもあり:第一C,第三C
裕福で夫婦愛あり。子どもはあるが障害がある:第二D
裕福で表面上は夫婦愛あり。子どもなし:第三D
貧乏から裕福へ。夫婦愛あり。子どもあり:第三B
貧乏から裕福へ。夫婦愛なし。こどもあり:第四D
裕福で愛あり。子どもなし:第四B
⑱【死】Even in death or physical absence, the presence of many characters lingers in throughout the book. How does this affect your reading experience? How would the book have been different if it were confined to one character’s perspective?
すでに亡くなっていたり、肉体的には不在であっても、多くの登場人物の存在が物語全体に留まっている。これはあなたの読書体験にどのように影響するだろうか。もしこの本が1人の登場人物の視点に限定して描かれていたら、どうか。
亡き人の思い出が自分の思考に影響を与えることは、私にとって特別なことではないため、この本の読書体験で特に新しく影響を受けた点はない。幼い頃から仏壇を拝み、お盆に墓参りをし、祖先の敬うことを教えられるという伝統的な日本の村社会で育った私には、それは空気のように自然なことだ。儒教的な要素が強い場合は、日本に限らず似たような傾向になるだろう。
亡くなった祖先、自分を愛してくれた人々は自分を守ってくれる神のような存在になる。この物語でいえば、サンジャの父フニ、夫イサクがそうであり、サモエルの母ユミもそうである。ハンスにとって、サンジャは肉体的に存在しないも同様の状態になってしまったにも関わらず、彼の心は常に報われることのないサンジャへの愛情と献身にあふれている。
もしこの本がハンスひとりの視点に限定して描かれていたなら、そこには全く異なる韓国と日本の姿が見えてくるに違いない。この物語のなかで私が最も惹きつけられ、興味深いと感じたキャラクターはハンスである。
⑲【題名】Why do you think the author chose Pachinko for the title?
なぜ作者はタイトルをパチンコにしたのだろうか
パチンコは、日本社会の矛盾を表現する代名詞になると考え、作者はこの題名を選んだのではないか。
パチンコは日本ではありふれた娯楽のひとつである。都会から田舎まで、日本中いたるところに存在しており、パチンコ業界は繁栄してきた。しかしそこには表と裏の顔があり、日本社会の矛盾が隠されている。第二次世界大戦前に植民地化された韓国とそこから移民として日本にやってきた人々の歴史を描いたこの物語は、貧困と繁栄、差別と同化など、理想と現実の間で葛藤する人間の姿を映し出そうとしている。
主人公の二人の息子たち、そして孫も結果的にパチンコ業界で働くことを選択していく。その背後には本来彼らが選択できる別の可能性があったものの存在も描かれつつ、ギャンブルであり社会的な評価が決して高いとはいえないパチンコが、彼ら一族を貧困から脱出させた最終的な救世主であることも、著者がタイトルにした理由だろう。
読書ガイドを利用した感想
質問の作り方が参考になりました。同じような形式で自分で質問を作って、他の本でやってみるのも面白そうだな、と思っているので、機会があればチャレンジします。
5回にわたってお付き合いいただき、ありがとうございました。