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「秋山図」芥川龍之介(1921)絵画コレクターの心理を描いた短編

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1921年(大正10年)に発表された芥川龍之介の短編小説を読みました。黄大癡(こうたいち)が描いた伝説の名画「秋山図」にまつわる不思議なお話。こちらのブログ(一生一石「秋山図」芥川龍之介の芸術観)の記述によると、惲寿平(うんじゅへい)という中国・清代の画家の「記秋山図始末」を芥川が翻訳し、ちょこっと手を加えたしたものらしいです。(これは芥川の創作というより翻訳だ、という中野重治氏の批評については「芥川龍之介の中国―神話と現実」Qiu Yafeng著にも詳しいようです)

10分程度で読めますが、ちょっと笑えるオチがついていて楽しい作品でした。(「秋山図」芥川龍之介著 ←青空文庫で無料で読めます)

原作と翻訳の読み比べ

原作が中国のお話の翻訳なので、英訳版でもまったく違和感を感じず、むしろ日本語よりも読みやすい気がしました。

「そうですか? ほんとうにそんな傑作ですか?」 翁は思わず主人のほうへ、驚いた眼を転じました。「なぜまたそれがご不審なのです?」「いや、別に不審という訳ではないのですが、実は、――」 主人はほとんど処子のように、当惑そうな顔を赤めました。が、やっと寂しい微笑を洩すと、おずおず壁上の名画を見ながら、こう言葉を続けるのです。「実はあの画を眺めるたびに、私わたしは何だか眼を明いたまま、夢でも見ているような気がするのです。なるほど秋山は美しい。しかしその美しさは、私だけに見える美しさではないか? 私以外の人間には、平凡な画図に過ぎないのではないか?――なぜかそういう疑いが、始終私を悩ませるのです。これは私の気の迷いか、あるいはあの画が世の中にあるには、あまり美し過ぎるからか、どちらが原因だかわかりません。が、とにかく妙な気がしますから、ついあなたのご賞讃にも、念を押すようなことになったのです」

「秋山図」芥川龍之介著

ネタバレになるので詳しくは書きませんが、ここは、この名画が、どんなふうに不可思議なのか、そのありさまが描かれている部分で、この作品を理解するうえで重要なポイントになる部分です。

“Really? You find it such a masterpiece?”
Yen-k’o could not help turning a surprised look at his host. “Can you doubt it?”
“Oh no, it isn’t that I have any doubts,” said Mr. Chang, and he blushed with confusion like a schoolboy. Looking almost timidly at the painting, he continued: “The fact is that each time I look at the picture I have the feeling that I am dreaming, though my eyes are wide open. I can not feeling that it is I alone who see its beauty, which is somehow too intense for this world of ours. What you just said brought back these strange feelings.”

Autumn Mountain By Ryunosuke Akutagawa TRANSLATED BY Ivan Morris (Modern Japanese Short Stories: An Anthology of 25 Short Stories by Japan’s Leading Writers)

私にもお気に入りの絵画や彫刻作品があります。ただ、その魅力が自分だけにしか理解できないものだったとしても、さほどガッカリはしません。抽象画など一般受けしないものに、ものすごく惹きつけられることがあり、その感覚を他人と共有できることを初めから期待していないからでしょう。

だから、この小説の結論部分(オチ)には、深く頷いてしまいました。美を愛でる感覚に満たされる喜びがあれば、それだけで私は幸福感を味わえます。でも、物を所有したい、独占したいという欲が強い人だと、このオチには納得できないかもしれませんね。

378作品が無料公開中

芥川龍之介の作品は青空文庫で378作品も無料公開されています。アマゾンのアンリミテッドで読める作品もかなりあります。日本人なら学生時代に必ず国語の教科書で読んだことがある作家ですが、意外と、それ以外の作品って読んでいないかも。

参考

芥川竜之介 あくたがわ-りゅうのすけ 1892−1927 大正時代の小説家。
明治25年3月1日生まれ。芥川比呂志・也寸志の父。母の実家芥川家の養子となる。東京帝大在学中,久米正雄,菊池寛らと第3次,第4次「新思潮」を創刊。大正5年発表の「鼻」を夏目漱石に激賞され,文壇に登場。「羅生門(らしょうもん)」「芋粥(いもがゆ)」などの王朝もの,「奉教人の死」などのキリシタンもので新技巧派の代表的作家となる。神経衰弱をやみ,「或阿呆(あほう)の一生」「歯車」をかいたのち,昭和2年7月24日自殺。36歳。その名を記念してのち芥川賞がもうけられた。東京出身。旧姓は新原。号は澄江堂主人など。俳号は我鬼。作品はほかに「玄鶴山房」「河童(かっぱ)」など。
【格言など】将来に対する唯ぼんやりした不安(遺書)

“あくたがわ-りゅうのすけ【芥川竜之介】”, 日本人名大辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2021-08-18)
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