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「西班牙犬の家」佐藤春夫(1916)愛犬との散歩が大好きな人の短編

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1916年(大正5年)に発表された佐藤春夫の短編小説を読みました。愛犬フラテに連れられて、ちょっと不思議な場所を訪れる物語です。主人公と一緒に神秘的な場所に迷い込む体験ができるファンタジーで最後のオチは少しドキリとさせられます。(「西班牙犬の家」佐藤春夫著 ←青空文庫で無料で読めます)

原作と翻訳の読み比べ

この作品の英訳はスムーズに読めました。むしろ、原作のほうが、読むのに時間がかかるかも。現在では使われなくなった表現や言葉がちょこちょこ出てくるためです。

この犬は非常に賢い犬で、私の年来の友達であるが、私の妻などは勿論もちろん大多数の人間などよりよほど賢い、と私は信じている。で、いつでも散歩に出る時には、きっとフラテを連れて出る。奴は時々、思いもかけぬようなところへ自分をつれてゆく。で近頃では私は散歩といえば、自分でどこへ行こうなどと考えずに、この犬の行く方へだまってついて行くことに決めているようなわけなのである。

「西班牙犬の家」佐藤春夫著

He is a very clever dog and has been my friend for years. I am convinced that he is far cleverer than most men, not to mention my wife. So I take Frate with me whenever I go for a walk. Once in a while he leads me to some quite unexpected spot. That is the reason that when I go for a walk these days I do not have any set destination in mind but follow obediently wherever my dog leads me. 

The House of a Spanish Dog By Haruo Sato TRANSLATED BY George Saito (Modern Japanese Short Stories: An Anthology of 25 Short Stories by Japan’s Leading Writers)

例えば、私には以下の語彙がなかったので、調べつつ読みすすめる必要がありました。こちらのブログ(Blog鬼火~日々の迷走)にも用語の解説があり、参考にさせていただきました。主人公の愛犬のフラテの名前にそんな意味があったとは!

  • ごく(極く)
  • めばえしたばかり(芽生したばかり)
  • そぞろあるき(漫歩)
  • ぐあい(工合)
  • ちょうぶ(町歩)100.8町歩が1平方km(200~300町歩=約2-3km2(皇居総面積が2.3km2)
  • せんかん(潺湲)1.さらさらと水の流れるさま。2.涙がしきりに流れるさま。
  • すいせい(水声)水の流れる音
  • きゅう(級)階段の一つ一つを数えるのに用いる。四段=四級(ふりがなは、よんきだ、になっている)

「フラテ」これは実は本邦に古くからある「キリシタン」用語で、イタリア語で「兄弟」を意味する“frate”(音写:フラァーテェ)に由来し、「托鉢」「跣足のフランシスコ会士」「アウグスチノ会士」などを指す語であった。

ブログ(Blog鬼火~日々の迷走) 西班牙犬の家 佐藤春夫

ちょっとネタバレ

この物語のなかで、主人公はあまりに奇妙な出来事に遭遇して「リップ・ヴァン・ウィンクル」を思い出す、という場面があります。リップ・ヴァン・ウィンクルって、どんなお話なんだろう?と思ったら、ちゃんと青空文庫に収録されていました。浦島太郎を思い出させる話ですが、ユーモアたっぷりで大笑いしながら読みました。佐藤春夫の作品も、リップ・ヴァン・ウィンクルも、私たちが現実だと考えている場所の曖昧さを読者に示します。ふとした瞬間に異世界に足を踏み入れる可能性があるかも?と考えるのは古今東西で同じなんですね。

何しろこの家の主人というのはよほど変者に相違ない。……待てよおれは、リップ・ヴァン・ヰンクルではないか知ら。……帰って見ると妻は婆になっている。……ひょっとこの林を出て、「K村はどこでしたかね」と百姓に尋ねると、「え? K村そんなところはこの辺にありませんぜ」と言われそうだぞ。

「西班牙犬の家」佐藤春夫著

仕事ができなくて、日常的に奥さんに怒鳴られているリップの様子が面白おかしく描かれていて、作者の皮肉もピリッと効きつつ、読者を物語に惹き込んでいきます。

口うるさい女房に、家できびしくしつけられている男たちは、えてして外では人の言いなりになって折りあいがよいものなのだ。そういう男たちの性質は、たしかに、家庭の責苦という燃えさかる炉のなかで、自由自在に打ちのばしがきくようにされるのである。寝室でひとこと小言をきかされると云うことは、世界中のあらゆる説教を聞いたも同然で、忍耐と辛抱の美徳を教えこまれるものだ。だから、ある見かたからすれば、口やかましい女房はかなりの恩恵だとも考えられる。もしそうなら、リップ・ヴァン・ウィンクルはこのうえもない果報者だったのである。

「リップ・ヴァン・ウィンクル」ワシントン・アーヴィング(著)

キャッツキル山、ハドソン川という地名が出てきて、舞台はどこだろう?と思ったら1756年のアメリカ、ニューヨークでした。日本の浦島太郎は室町時代(1336-1573)の御伽草子に原型が見られるのですが、似たようなおとぎ話は世界各国にあるようで非常に面白いですね。

51作品が無料公開中

佐藤春夫の作品は青空文庫で51作品が無料公開されています。アマゾンのアンリミテッドで読める作品もかなりあります。 こちらのブログ(Blog鬼火~日々の迷走)でも、この作品を読むことができます。用語の解説も充実していました。

参考

佐藤春夫さとう-はるお(1892−1964)大正-昭和時代の詩人,小説家。
明治25年4月9日生まれ。生田長江(ちょうこう),与謝野(よさの)鉄幹らに師事。「スバル」「三田文学」などに詩を発表,小説「田園の憂鬱(ゆううつ)」で注目される。大正10年「殉情詩集」を刊行。また評論随筆集「退屈読本」,中国詩を訳した「車塵(しゃじん)集」などがある。昭和35年文化勲章。昭和39年5月6日死去。72歳。和歌山県出身。慶応義塾中退。作品はほかに「都会の憂鬱」「晶子曼陀羅(まんだら)」など。
【格言など】あはれ/秋風よ/情(こころ)あらば伝へてよ/―男ありて/今日の夕餉(ゆうげ)に ひとり/さんまを食(くらひ)て/思ひにふける と。(「秋刀魚の歌」)

“さとう-はるお【佐藤春夫】”, 日本人名大辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2021-08-20)

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