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新たな経済を作る?どうやって価値観を変える?/オンライン国際シンポジウム視聴の備忘記録

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オンライン国際シンポジウム 2022「ムハマド・ユヌス氏と創る3つのゼロの世界~貧困ゼロ・失業ゼロ・CO2排出ゼロの新たな経済~」を視聴したので、備忘記録を残しておきます。

シンポジウムは、ユヌス氏の基調講演のあとに、斎藤幸平さん・中島岳志さん・末吉里花さんの3名がそれぞれユヌス氏に質問したり、意見を述べる形でした。パネルディスカッションとなっていたので、斎藤さん、中島さん、末吉さんの3人で議論するのかな?と思っていたのですが、それはなかったです。

開始前のアナウンス、最初と最後に主催団体の偉い人(おじいちゃん)の挨拶があって、英日の同時通訳があり、パネルディスカッションも台本通りで、定刻開始、定刻終了!そつなく見事にまとまった日本的なイベント運営でした。申込者は後で録画も見られるらしいです。きっちり予定調和で、安心感のある内容と運営でした。

私はPeatixから申し込んだのですが、視聴後に確認したら申込が1,413名になっていてビックリ。最初は、参加費無料で定員3,000名までというイベントの枠の大きさにも驚いたけど、主催、共催、後援団体の層の暑さから考えると驚くほどでもないのかな?運営コスト、どのくらいなんだろう?

内容に関係ない話が長くなってしまった。。。

システムを変えよう(ユヌスさんの話)

ユヌスさんはバングラデシュからの中継参加でしたが、お顔を拝見した瞬間に思わず「若い!」と口走ってしまいました。82歳という年齢を感じさせない熱量で、流暢な英語で30分間途切れることなく、グラミン銀行の歴史、ご自身の理念を語ってくださいました。

同時通訳が入っていて、日本語への音声の切り替えもできましたが、そうするとユヌスさんの肉声が聞こえなくなっちゃったので、まぁ、英語だし、なんとなく分かるからいいか、と通訳なしで聞いてました。

conventional bank(従来型の銀行)とvillage bank(村の銀行=グラミン銀行)を比較しつつ、貧しい人を「仕事を探す人job seekers」にするのではなく「起業家 entrepreneurs」にするサポートをするために新しい経済システム(social system)を作ったのだ、という説明は、ご本人の口から語られるとめちゃくちゃ説得力とパワーがありました。

田舎の村(remote village)に銀行を作って無担保(no collateral)で起業したい女性にお金を貸すしくみは、銀行っていうよりも教育機関って感じなんだよね。だってお金を借りる代わりに起業の勉強しなきゃいけないんだもん。自立支援ってまさにコレでしょう。

お金儲け中心の経済システムを脱して、新しいシステムをデザインして作る(redesigning)ことが非常に重要で、現在グラミン銀行は、アメリカや日本でもバングラデシュのように活動を拡げているとのことでした。グラミン日本は、シングルマザーへのサポート、起業支援と教育に力を入れているようです。アメリカでも利用者は100%女性、それも移民の人たちだ、とのこと。

脱成長は価値観の転換(斎藤さんの話)

斎藤さんは、のっけから自分はマルクス主義者なのですが、と自己紹介をして、3つのゼロに、もうひとつ「脱成長」も加えて4つのゼロに!と呼びかけていました。斎藤さんの著書「人新生の資本論」を読んでいれば、新しく発見された後期マルクスの思想は、エコでコモンだって分かるけど、そうじゃないと誤解されるのでは。。。と心配したら案の定、ユヌスさんから拒否反応が!ここは見どころの一つでしたね。面白かった!(斎藤さんが直接英語で語れば少しは違ったのかもしれないな、と思ったり)

あとは「脱成長の勘違い」についても、説明してもらえて良かったです。「脱成長」とは、成長を止めることではなくて「価値観の転換」をいうのですよ、みなさん!ややこしい。でも、これ、勘違いするよねぇ。

私たちは成長主義、利己主義に根底から毒されていて、行き詰っている。だから途上国、グローバル・サウスの人たち、地域から学ぶことで、先進国と呼ばれる国々で暮らす人々は価値観を転換させていくべきだ、という書籍でも展開されたお話も聞けました。

ユヌスさんは大学で経済学の先生だったけど、学んで得た知識を基にして、現実社会の経済格差を改善した実績をバングラで作ったわけですが、いずれ斎藤さんもそんな感じになるのかな?

日々の生活からエシカルに(末吉さんの話)

末吉さんのお話で印象に残ったのは、規模が大きくなり過ぎると思考停止しちゃうので、日常生活の身近なところから、自分にできることを始めてみる、というお話。

あとは生活者、消費者の権利を行使しましょう、というお話も良かったですね。環境に配慮したもの、人権に配慮したものを作って欲しいと企業に伝えていく。そのスタートが社会を変える力になる。

消費者の声が企業を動かす力を持っているのだとすれば、それを使えば、現在の拝金主義の経済システムを変えられる可能性もあるのですよね。

受け取ってもらえないのは利他じゃない(中島さんの話)

私が個人的に、最も知的好奇心が満たされたのは中島さんの利他のお話でした。偶然性の例え話も、私がいつも考えていることに近くて「おおっ」ってなりました。短い時間で、参考文献も提示してくれるし、超お得でした。ありがとうございます。

利他って、自分たちが何かをやってあげることだと勘違いされるけど、実は違うんです。こちらがあげても、相手が喜んで受け取ってくれなかったら、「利他」にはならないんですって。

その人のために、と思って行動しても「ありがた迷惑」だと喜ばれません。利他は「やってあげること」じゃなくて「受け取ってもらう」ことにフォーカスしなきゃいけない。

なるほどなぁ。

中島さんの一人Q&A方式の話し方も勉強になりました。簡単にまとめるとこんな感じ。

Q:なぜユヌスさんはグラミン銀行を通じて困難な状況を変えられたのか?
A:新自由主義システム(拝金主義)の根底にある人間観の変更をユヌス氏がグラミン銀行を通じて行ったから成功できた。

Q:システムの根底にある人間観って?
A:自己責任論に基づく近代的な人間観

Q:近代的な人間観(自己責任論)は、人間の本質なのか?
A:ちがう。今ここに存在する自分は全て偶然で成り立っている。(参考:九鬼周造「偶然性の問題」)根源的な偶然性に触れたら、私たちは自己責任論は取れなくなる。誰もが他の誰かであり得たかもしれない。自分を越える力が働いていることに自覚的になると、オルタナティブな世界のあり方が見えてくる。

Q:人間は自己の利益を最大化するために活動するって本当か?(ホモエコノミクス)
A:考えてみるには日本哲学が役立つ。例えば西田幾多郎の主語的論理から述語論理への転換の話。
何でもかんでも、人間が、私がという考えを離れてみると、見えるものがある。

Q:ユヌスさんの人間観はどんなものか?
A:新古典学派(ホモエコノミクス)を否定している。利己的な人はおらず、システムが利己的であることを人間に強いているのだ、という考え。だからシステムを変えることが重要だとユヌスさんは考えている。

「利他」とは何か (集英社新書) 中島岳志 (著), 若松英輔 (著), 國分功一郎 (著), 磯崎憲一郎 (著), 伊藤亜紗 (編集)2021

偶然性の問題 (岩波文庫) 九鬼 周造 (著)

woman writing on a notebook beside teacup and tablet computer
Photo by Tirachard Kumtanom on Pexels.com

まとめ

人のつながりって、ありがたいなぁ。Sさんに教えていただかなければ、このシンポジウムの存在も知らず、参加もできなかったでしょう。

今回理解したのは、多くの人が共有している「古い価値観(近代的な自己責任論)」を「新しい価値観」に変更できさえすれば、疲弊した現在のシステムを変えられるぞ、ということ。

つまり、新しい魅力的な物語が必要だ、ってことなのかな。誰がいつ、それを生み出すのか?あるいは人工的に作り出されて、知らないうちに流布されてしまうのか?

参考

グラミン銀行 ぐらみんぎんこうGrameen Bank

貧困に苦しむ人々に無担保で少額の資金を融資して自立を促す銀行。バングラデシュの経済学者ムハマド・ユヌスが設立した。グラミンとはベンガル語で「村の」という意味であり、融資を受けた農村部の多くの貧しい女性たちが行商、家畜飼育、裁縫などの小規模事業を始め、貧困から抜け出す助けとなっている。「貧者の銀行(Bank for the Poor)」ともよばれ、無担保による小口金融(マイクロファイナンス)の草分け的存在である。「貧困層の経済的・社会的基盤の構築に対する貢献」で2006年、グラミン銀行はユヌスととともにノーベル平和賞を受賞した。

“グラミン銀行”, 日本大百科全書(ニッポニカ), JapanKnowledge, (参照 2022-12-15)

エシカル消費 えしかるしょうひ ethical consumption

地球環境や社会貢献などに配慮したモノやサービスを積極的に消費する行動。自分の欲求だけによる消費ではないため、「倫理的な」という意味の英語の形容詞エシカルをつけたことばである。国の消費者基本計画はエシカル消費を「地域の活性化や雇用なども含む、人や社会・環境に配慮して消費者が自ら考える賢い消費行動」とし、消費者庁は「消費者それぞれが各自にとっての社会的課題の解決を考慮したり、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うこと」と定義している。自然保護や省資源に役だてようとする「エコ消費」、健康で持続的な社会を目ざす生活スタイル「ロハス」、開発途上国から搾取することなく、商品を適正価格で購入する「フェアトレード」、社会的弱者の支援につながる「チャリティー消費」、地域活性化の一助となる「地産地消」などを包括するマーケット用語である。環境や人権に配慮しない企業の商品を排除(ボイコット)するという回避行動もエシカル消費に含まれる。また、エコバッグを持って買い物に出掛ける行動も、広義のエシカル消費の一つとされる。

“エシカル消費”, 日本大百科全書(ニッポニカ), JapanKnowledge, (参照 2022-12-15)

「3つのゼロの世界 貧困0・失業0・CO2排出0の新たな経済」 (早川書房) ムハマド ユヌス (著), 山田 文 (翻訳)

A World of Three Zeros: The New Economics of Zero Poverty, Zero Unemployment, and Zero Net Carbon Emissions by Muhammad Yunus (2017)

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