8. Trial&Error読書感想8.1. ふとした気づき

「山月記」中島敦(1942)虎に変身した詩人の嘆きを味わう短編

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8. Trial&Error
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1942年(昭和17年)中島敦が33歳の時に発表されたデビュー作である短編小説「山月記」(さんげつき)を読みました。虎に変身してしまった詩人の悲哀を描いた物語。(青空文庫のこちらで読めます)

原作と翻訳の読み比べ

主人公の李徴(りちょう)は、優秀な官吏でしたが、その職に甘んじることを良しとせず、詩人になり後世に名を残すという大志を抱きます。妻子も顧みずに職を辞し、引きこもって詩作に没頭するようになるのですが、なかなか芽が出ずに苦しんでいるところで不思議な出来事が起こります。

今から一年程前、自分が旅に出て汝水のほとりに泊った夜のこと、一睡してから、ふと眼を覚ますと、戸外で誰かが我が名を呼んでいる。声に応じて外へ出て見ると、声は闇の中からしきりに自分を招く。覚えず、自分は声を追うて走り出した。無我夢中で駈けて行く中に、いつしか途は山林に入り、しかも、知らぬ間に自分は左右の手で地をつかんで走っていた。何か身体中に力が充ち満ちたような感じで、軽々と岩石を跳び越えて行った。気が付くと、手先やひじのあたりに毛を生じているらしい。少し明るくなってから、谷川に臨んで姿を映して見ると、既に虎となっていた。

「山月記」中島敦著

About a year ago, I was on a journey and stayed at the banks of the Fu River. While I had sleeping I listened to a weird voice and woke up. It kept calling my name out of the darkness. Unconsciously I ran after the strange voice. As I galloped along, I found myself in a forest. My hands gripping the ground with both hands while I’ve run. I felt as if my body was full of energy, and I easily jumped over the rocks. I noticed that my fingers and elbows were covered with hair. When it became a little brighter, I looked down into the river and saw that I became a tiger itself. (Google翻訳+DeepL翻訳を使用)

なぜか中島の名前を「あつし」ではなくて「とん」にしてるんですよね。訳者のIvanさんは、どこで調べたんだろう?百科事典にも載ってないし、これも明らかな間違いだと思うんだけど。日本人に原稿をチェックしてもらってないのかな。それはさておき、Tiger-Poetという題名は、まさにピッタリ!なるほど!と思わされました。素晴らしい。

“About a year ago I was dispatched to the south on some paltry errand. On my way I spent the night by the River Ju. I retired early and went to sleep almost at once, but after what seemed a short time, I was awakened by a strange voice, and looked out. From the darkness the unknown voice summoned me, and an irresistible impulse caused me to obey.
“Without hesitation, I jumped out of the window and rushed off into the night, running as if in a delirium, heedless of direction. Before I knew it, I was on a path entering the woodland. To my surprise, I found that I was running with both hands on the ground; I seemed to be able to move much faster in this manner. As I run, I felt a strange strength filling my body, and I sprang lightly over rocks and tree trunks. Then I noticed that thick hair had grown around my fingers, my arms and shoulders, in fact all over me….
“When dawn began to break, I stopped by a mountain stream and looked into the clear water. At once I saw that I had become a full-fledged tiger.

Tiger-Poet By Ton Nakajima TRANSLATED BY Ivan Morris (Modern Japanese Short Stories: An Anthology of 25 Short Stories by Japan’s Leading Writers)

「1年ほど前、私はとある用事で南方に派遣された。その途中、ジュウ川のほとりで一晩を過ごした。早めに家を出て、ほとんど寝てしまったのですが、しばらくして、不思議な声で目が覚め、外を見てみると、暗闇の中から知らない声が私を呼んでいました。闇の中から見知らぬ声が私を呼び寄せ、抗しがたい衝動が私を従わせたのです。
「迷うことなく窓から飛び出し、夜の街に飛び出しました。いつの間にか森の中の道に入っていました。驚いたことに、私は両手を地面につけて走っていることに気付きました。走っていると、不思議な力が体にみなぎってきて、岩や木の幹を軽々と飛び越えていきます。そして気がつくと、指や腕、肩など、全身に太い毛が生えていた。….
「夜が明け始めた頃、私は渓流に立ち寄り、澄んだ水の中を見ました。その時、私は自分が一人前の虎になっていることに気づきました。 (DeepL翻訳を使用)

変身譚といえば、1915年に発表されたカフカの「変身」を思い出す人も多いでしょう。しかし、カフカの作品はあくまで不条理な世界を描いているのに対して、中島の「山月記」は、道徳的な規範に外れた人間を戒めるような倫理観が含まれています。もともと中国の怪奇譚「人虎伝」をベースにして作られた作品だからか、儒教的な雰囲気が色濃く感じられる気がします。今でも国語の教科書に載ってるのかな?

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中島敦の作品は青空文庫で35作品が無料公開されています。アマゾンのアンリミテッドで読める作品もありました。  

参考

中島敦(なかじまあつし)1909-42(明治42-昭和17)

小説家。東京生れ。東大国文科卒。祖父は漢学者中島撫山,伯父にも漢学者が多く,父は中学の漢文教師。1933年横浜高等女学校の教師となり,かたわら作家を志して習作にはげんだ。持病の喘息悪化のため,転地療養を兼ねて41年パラオの南洋庁に赴任するが,健康を害して翌年帰京。唐代の伝奇《人虎伝》を素材にした《山月記》が深田久弥の推挽で42年2月の《文学界》に掲載されて文壇にデビュー。同年5月発表の《光と風と夢》も好評で以後創作に専念。《光と風と夢》《南島譚》(ともに1942)と相次いで創作集を刊行するが,同年12月喘息のため没。43年《弟子》《李陵》が遺稿として発表された。戦時下の文学空白期に彗星のごとき光芒を放つ中島の文学は,格調正しい明晰な文体で,人間と運命との格闘・相克のドラマの中に生のありようを実存的に追求している。それらは今日の現実的な課題を数多くはらんでおり,夭折が惜しまれる。

“中島敦”, 世界大百科事典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2021-09-04)

中島敦 (あつし) の短編小説。『文学界』1942年(昭和17)2月号に、短編『文字禍』とともに『古譚 (こたん) 』という総題の下に載る。同年7月、筑摩 (ちくま) 書房刊『光と風と夢』に収録。中島敦のデビューを告げる作品。原稿では前記2編のほか『狐憑 (きつねつき) 』『木乃伊 (みいら) 』をあわせ全4編で『古譚』を形成。ともに古代世界を舞台とし、尋常ならぬできごとが展開する短編である。芥川龍之介 (あくたがわりゅうのすけ) の再来という評もあった。ことに『山月記』は、中国唐代の伝奇『人虎伝 (じんこでん) 』を素材として、「詩をつくること」にとらわれてしまった人間李徴の劇的な運命を、虎 (とら) と化しながらなお人間の心をもつという臨界状況の下に描く佳作である。

“山月記”, 日本大百科全書(ニッポニカ), JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2021-09-04)

n. ベラウ[パラオ](共和国)(Republic of Belau):西太平洋,Caroline 諸島西端の島々から成る国;第二次世界大戦後米国の信託統治領となったが,1981年に自治政府が発足;旧称 Palau Islands;人口14,000,面積464km2;首都 Koror.

“Be・lau”, 小学館 ランダムハウス英和大辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2021-09-04)

喘息(ぜんそく)asthma 文字上は〈息が喘(あえ)ぐ〉状態,すなわち息がしにくいという状態を意味するが,医学上はこのような状態のすべてをさすわけではなく,突発する(発作性の)痙攣(けいれん)性の呼吸困難を意味し,それがくり返して起こるというニュアンスが含まれている。喘息には気管支喘息と心臓性喘息の二つがある。気管支喘息はアレルギーと気道の過敏性が原因となる気道自体の病気であり,心臓性喘息は高血圧,冠動脈疾患(狭心症,心筋梗塞(こうそく)),大動脈弁疾患,僧帽弁疾患などによって起こった心不全が原因となる。両者とも夜間から早朝にかけて多いが,気管支喘息はとくに明け方,心臓性喘息はいったん寝こんだところで発症し,息苦しさのため突然目覚めることが多い。心臓性喘息では仰臥位で寝ているときは血液が肺に集中し,肺うつ血(うつけつ)のため発作が起こりやすいと考えられ,座位になると症状は軽減する。両者の治療はまったく異なるため鑑別が重要である。気管支喘息に対しては気管支拡張薬がおもに用いられ,心臓性喘息に対しては利尿薬,ジギタリス製剤が用いられる。

“喘息”, 世界大百科事典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2021-09-04)

以下のブログが非常に参考になりました。

如水とは今でいう撫河のこと。江西省の北部を流れ、長江に流入する。

「山月記」に出てくる謎の用語まとめ

撫河(ぶが、Fu River、簡体字: 抚河、拼音: Fŭ hé)は、中華人民共和国江西省東部を流れる河川である。長江水系の鄱陽湖に注ぐ。撫州(現在の江西省撫州市)に発することから撫河の名が付けられた。古い呼び名には、盱水(くすい)、盱江、建昌江、武陽水、汝水などがある。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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