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絶対に正しいってホントに?(神曲 天国篇 第十九歌)

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現在、ダンテの「神曲 天国篇」を読んでいます。今回は第十九歌を読んで「?」となった部分を深堀して考えてみました。

それってごまかしてない?

第十九歌でダンテの祖先カッチャグイダが神の正義は人智では計れない、人間の不十分な知恵では理解できないのだと説明して、ダンテの質問を胡麻化しているけれども、そのように神を絶対視することは、科学的で論理的な思考を妨げることに繋がる気がしませんか?

ああ地上の動物よ!ああ粗野な頭脳よ!
それ自身が善良である原初(はじめ)の意(こころ)はかつて
至上善であるそれ自身から外れたことはなかった。

その意(こころ)に和するものはみなすべて正義なのだ。

神意は、光輝を放って、ものを創りだした以上、
創られたものの方へ神意が屈曲する道理はない

神曲 天国篇 (河出文庫) ダンテ・アリギエーリ (著), 平川祐弘 (翻訳) 形式: Kindle版 <第十九歌 86-87>

85 Oh terreni animali! oh menti grosse!
86 La prima volontà, ch’è da sé buona,
87 da sé, ch’è sommo ben, mai non si mosse.

88 Cotanto è giusto quanto a lei consuona:

89 nullo creato bene a sé la tira,
90 ma essa, radïando, lui cagiona».

Poem (Petrocchi Edition) <第十九歌 85-87>

O earthly animals, o minds obtuse!
The Primal Will, which of Itself is good,
from the Supreme Good—Its Self—never moved.

So much is just as does accord with It;
and so, created good can draw It to
itself—but It, rayed forth, causes such goods.”

Allen Mandelbaum Translation <第十九歌 85-90>

マルクスは宗教を「民衆のアヘンである」と言いました。確かに根本的な問題の解決が難しく苦しむ人たちにとって、絶対神や来世の幸福を信じることで、たとえ短期ではあっても現実の苦痛に堪えることができる宗教の力は魅力的でしょう。

家庭不和、病気、貧困などへの苦しみから各種宗教に救いを求める人もいますが、科学的知識や論理的な思考を置き去りにして、すべての出来事は神の意志だから、と自分の頭で考えることを止めて、その宗教の教義を無批判に受け入れることが、本当に信者にとって、また社会全体にとって最良なことだと私には思えないのです。

宗教的な惨状は、現実的な惨状の表現に、そして現実的な惨状に対する抗議に存在する。宗教は窮迫した生き物のうめき声であり、それは精神なき状態の精神であるように、無情な世界の心情である。それは国民の阿片である。

「ヘーゲル法哲学批判序説」 カール・マルクス

知的閉鎖性に陥ってしまう

私が最も恐ろしいと感じるのは、自分が正しくて他人が間違っていると疑いもなく信じている人ですが、コロナ禍では、そうした人たちの存在が以前よりも可視化されている気がします。陰謀説やワクチン疑惑など、SNSで面白おかしく論じられて、そのトピックがネタとして消費されている状況では、すべてのことを疑うくらいの姿勢でファクトチェックを意識するメディアリテラシーが求められます。

またここで思い出すのがオルテガの「知的閉鎖性のメカニズム」です。

こうした人間は、まず自分のうちに思想の貯えを見いだす。そしてそこにある思想だけで満足し、自分は知的に完全だと考えることに決めてしまう。彼は自分の外にあるものを何ひとつ欲しいとは思わないから、その貯えのうちに決定的に安住してしまうのだ

大衆の反逆 (白水Uブックス) ホセ・オルテガ・イ・ガセット (著), 桑名一博 (翻訳)

ダンテの特徴は強固な自己信頼とキリスト教への信仰で、故郷から追放されるという逆境をバネに神曲という大作を創作しました。つまり、何かを信仰することは諸刃の剣だと考えなければならないのです。不安を取り除き、生きる希望を与えてくれる可能性もあるし、私達の思考を停止させ、本質的な課題解決を遅らせる可能性もあります。

現代では、宗教に限らず、魅力ある個人がインフルエンサーとしてYouTubeなどで広くファンを獲得することができ、影響力をもつ状況が生まれており、彼らの言葉を盲信し自らの頭で再考することなく拡散する人々もいます。

オルテガが憂慮した知的閉鎖性のメカニズムに陥ることをどのように防ぐのか、またそのような状況に陥っている人に対して、どのようなことができるのかを考えなければならないでしょう。

参考

神曲:… この彼岸の世界への旅は1300年4月8日からほぼ1週間にわたって続くが、読者は主人公のダンテとともに3人の導者たちに連れられて三界を遍歴しながら、しだいに魂の浄化を遂げてゆき、その意味ではカトリシズムによる一大教化の書といってよい。しかしながら、作品の随所に、教皇を含めて聖職者たちへの熾烈 (しれつ) な糾弾が語られ、単なるキリスト教の喧伝 (けんでん) の書ではなく、政治的には教皇庁と鋭く対立する亡命者ダンテの政策が掲げられ、詩人の悲願であるローマ帝国の再建とイタリア半島の政治的統一、アラブ世界を経由した科学思想、また前衛的な詩法、神学、社会批判等々、中世ラテン文化の総決算の書となっている。

“神曲”, 日本大百科全書(ニッポニカ), JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2021-08-29)

スペインの哲学者オルテガ・イ・ガセットの著書。1930年刊。先駆的大衆社会論として著名。すでに1921年に発表した《無脊椎のスペイン》で,彼はスペインの没落の原因を,指導的少数者に対する大衆の不従順に求めたが,本書ではその視点がさらに広く現代社会一般に向けられている。諸権利を主張することに急で,自らに要求するところが少ない〈大衆人hombre-masa〉の出現と,それがもたらす危険についての警告は,以後いたるところで現実のものとなった。大衆社会を否定的に見る彼の〈貴族主義〉がときに批判されることはあるが,それを彼の〈生・理性〉の哲学の一章としてとらえなおすとき,本書はなおその有効性をいささかも失っていない。

“大衆の反逆”, 世界大百科事典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2021-08-31)

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