現在、ダンテの「神曲 天国篇」を読んでいます。内容を理解するためには、アリストテレスの質料と形相についての知識が必要とのことで、少し調べてみました。
神曲天国篇
よく意味が分からなかった部分はココ。
ダンテが天国で再会した最愛の女性ベアトリーチェに月の斑点の意味を尋ねたところ、彼女は神学的かつ物理学的に詳しく説明してくれる、という部分です。
さあ、熱い日光に照らされて雪が原の色や原の冷たさを失おうともその質料は元通りのように、[誤りを論破された]おまえの知性も本体はもとのままですから、いまそれに活力を帯びた光で形相を附与したいと思います。
訳注108: 雪の質料は水である。その質料それ自体には変化がない。この物理学的な天二歌では、ダンテの心理の説明さえもがこのような比喩を借りて行われている
「神曲 天国篇」 (河出文庫) ダンテ・アリギエーリ (著), 平川祐弘 (翻訳) 第二歌108
アリストテレスの自然学
14世紀、中世イタリアでは、古代ギリシアの哲学者アリストテレスの自然学が信じられていました。そのため詩人ダンテは、自分の分身を登場させた作品でも、当時の知識人が一般的に信じていたであろうことを作中で語らせているんですね。
アリストテレスAristotelēs[前384―前322] プラトンの弟子で、プラトンと並ぶ古代ギリシア最大の哲学者。師プラトンが超感覚的なイデアの世界を重んじたのに対して、アリストテレスは人間に卑近な感覚される事物を重んじ、これを支配する諸原因の認識を求める現実主義の立場をとった。プラトンの哲学の深い影響から出発し、アリストテレスは壮年時からしだいに独自の体系を築き上げていった。両者の思索の関連、ことに若きアリストテレスの哲学形成の過程については、資料の制約もあって今日でも多くの謎 (なぞ) を残し(初期アカデメイアの謎)、専門研究者間の論争の的になっている。しかし、同じ哲学をめぐる二人の哲学者のもった独自の視点とその思索の展開の固有な形態から生まれる緊張のうちにギリシア哲学のもつ最大の魅力はあり、その後長く今日に至るまでヨーロッパ哲学を形成する原動力となった。
“アリストテレス”, 日本大百科全書(ニッポニカ), JapanKnowledge, (参照 2021-05-04)
[自然学]運動変化する感覚的事物の原因の研究が自然学といわれる。彼はここに4種の原因をあげた(四因論)。(1)質料因――事物が「それ」からできている素材、(2)形相因――事物が「それ」へと形づくられるもので、事物の定義となるもの、(3)始動因――「〈それに〉よって」事物が形成される因 (もと) となる力、(4)目的因――この事物形成の運動が「それ」を目ざしてなされる目的、がそれである。このうち、(2)(3)(4)は自然物においては一つであるので、結局、質料と形相によって自然物はなり、質料の内に形相が自己を実現してゆく生成発展の過程として自然の存在は把握される。質料はそこで形相を受容しうる能力(デュナミス・可能態)として、終極目的に従って把握されるので、終極目的(テロス)であるエンテレケイア(完成態)、エネルゲイア(現実態)こそが、自然存在の優越する原因であるとされた(目的論的自然観)。
“アリストテレス”, 日本大百科全書(ニッポニカ), JapanKnowledge, (参照 2021-05-04)
でも。。。これを読んでも、イマイチ、というかほとんど分かんないぞ。もうちょっと、分かりやすく説明してほしい、と思って調べたら「アリストテレス哲学の基本概念」として、詳しい説明がありました。助かった!!
質料(ギリシャ語はヒューレー=木材)
イデアを超感覚的な実体とみるプラトンの説を批判し、エイドス(形相)は質料に内在する本質であると説いた。
“アリストテレス”, 日本国語大辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2021-05-04)
質料 (しつりょう) (ヒューレーhlē)
形相 (エイドス) とともに、生成する存在者の構成要素をなす。事物の生成は、事物を限定して形成する要素(形相)と、この限定を受け入れる要素(質料)の二要素によって考えられる。アポロンの彫像についていえば、アポロンの形姿は形相であり、石材または青銅材は質料である。動物についても同じように、それをある特定の種として限定しているものが形相であり、肉や骨や筋をなす成分は質料である。質料を意味するギリシア原語はヒューレーであって、本来は木材を意味した。つまり「加工を受けて、何かになる元」がヒューレーである。ラテン語でmateria〔matter(英語)、matière(フランス語)〕と訳される。英語のmatterは物質をも意味するが、質料としてのmatterは、限定を与える形相に関係して考えられる消極的要素であって、それ自身では無規定な、認識しえぬものであり、それ自身である一定の性質を備えたものとして考えられる物質とは異なる。
“アリストテレス哲学の基本概念”, 日本大百科全書(ニッポニカ), JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2021-05-04)
これで、「雪」という形相の質料は「水」だ、ってことが何となく分かりました。でも、それって、ベアトリーチェが説明するように、人間にも当てはめちゃっていいのかな?
形相
形相 (けいそう) (エイドスeidos)
“アリストテレス哲学の基本概念”, 日本大百科全書(ニッポニカ), JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2021-05-04)
動詞イデインidein(見ることの意)から派生した語で、もともとは見られた形、姿を意味した。ラテン語ではformaと訳される。プラトン哲学ではイデアと同義に用いられたが、アリストテレス哲学では存在事物に内在する本質をいう。これが、ものの「なんであるか」を規定し、ものを現にあるとおりのものとして存在させている原因(形相因)である。アポロン彫像におけるアポロンの形姿、自然物における自然本性としての魂がそれである。形相がその内に実現される材質は質料 (ヒューレー) といわれ、アポロン彫像における石または銅、自然物における土、水、空気、火という構成元素などがそれである。存在事物は形相と質料からなるとされ、これをヒレュモルフィスムスHylemorphismusという。
だめだ、分かんない。頭がごちゃごちゃしてきた。彫像とかを事例で出すのは良いけど、やっぱり、何でそれが人間に適応できると思うのかが分かんない。百科事典だけじゃダメみたい。たしか「世界十五大哲学」にアリストテレスの解説があったはず。。。
動物発生論が範型
アリストテレスは、生物学の研究にすぐれていた。(中略)質料と形相との結合という上述の考えへと彼を導いたのも、おそらく、動物の雄の精液に含まれている種(精子ーこれが形相と考えられた)と、雌の血(この血は、精子がなければ月経の血となって棄てられる。卵子の存在は知られておらず、この血が質料と考えられた)とが結合して子の肉体が形成されると考えた、彼の動物発生論が範型となったものであろう
世界十五大哲学 (PHP文庫) 大井 正 (著), 寺沢 恒信 (著)
そっか、なるほどね。これで少し分かりました。ちょっと長くなったので、続きはまた今度。