「 EMPTY ROOM 」(邦題:誰もいない部屋―生者と死者のはざまで―)というイスラエルのドキュメンタリー映画を見たので、感想を記録しておきます。息子を亡くした両親が、自分たちの権利を主張して裁判で闘った記録です。彼らが主張する、その驚きの権利とは…
あらすじ
このドキュメンタリーの主人公は、イスラエルに住む50代夫婦です。3人の子を持つ妻イリットIritと夫アッシャーAsherは、25歳で事故死した息子オムリOmriが忘れられません。
イリットとアッシャーは、死後に摘出したオムリの精子で、孫を誕生させ、育てられないかと考えます。しかし、そのような前例はイスラエルどころか、世界でも例がないため、裁判で国と闘うことになり、彼らは苦戦します。
生命倫理を考えさせられる
結婚を控えた娘が2人いて、犬や猫、オウム、亀など様々なペットを飼い、軽口を叩いて笑い合っているイリットとアッシャー夫婦は、ごく普通の幸せそうな家族を営んでいるように見えます。
しかし、夫婦は、亡くなった一人息子への執着を止めません。勝てる見込みの薄い裁判を何とかしたいと、弁護士を雇い、精神科医の鑑定を受け、自分たちの要求の正当性を立証しようと必死です。
故人の精子を使って妊娠出産できる権利があるのは、現法では妻だけですが、独身だったオムリには妻はなく、またオムリ本人の遺言もないため、両親は自分の息子の精子に対する所有権が通常であれば認められないのです。
この夫婦が望みが法的に認められる世の中になったら、生命倫理の新しい規定が必要になるでしょう。子どもは親の所有物なのでしょうか。同じような遺伝子の生物であれば、愛した者の死を代替することが可能なのでしょうか。
飼っていた犬が死んだら、同じ種類の犬を飼ってくれば、悲しみは和らぐかもしれない。飼っていた犬のクローンが、もし作れるのならば、それでもいい、そういうことなのでしょうか。
科学の発達で、不可能が可能になることが増え、私たち人間の選択肢も増えるなかで、技術的には可能だけれども倫理的に許されるのか、といった問題も、増加していくでしょう。人間の欲望には際限がありません。自分は、どんな未来社会を望むのか、考えさせられる映画でした。
詳細
Director | TITLE | YEAR | GENRE | TIME | SCORE(IMDb) |
シャーリー・バーコビッツ Shirly Berkovitz | 誰もいない部屋―生者と死者のはざまで― | 2017 | Documentary, Drama | 0:52 | なし |
監督情報
シャーリー・バーコビッツ(Shirly Berkovitz)は、1977年イスラエルのテルアビブ生まれ。 Beit Berl Arts College卒業。主な監督作品は以下のとおり。(こちらとこちらを参照)
- 2004 Blocked(短編)Haifa Int’l Film Festival上映
- 2005 100%(長編)Docaviv- Documentary Film Festival上映
- 2009 The Way Up(ドキュメンタリー)TLVFest LGBT映画祭で上映
- 2012 The Good Son(ドキュメンタリー)IDFA、その他多くの国際映画祭で上映
- 2017 Empty Room(ドキュメンタリー)