第115回読書会では、こちらの本を共有する予定です。今回は、第二部「世界=帝国」第三章「世界帝国」から面白いと思ったところを共有します。
第二部は国家社会の形成について説明されているのですが、ここで著者は私たちが、知っている歴史の定説を否定します。
(定説)農業・牧畜⇒人々の定住⇒生産力の拡大⇒都市の発展⇒階級的な分解⇒国家の誕生
(柄谷説)定住⇒都市(神殿都市)と国家の成立⇒農業・牧畜
説明されると、なるほどそうか、と思いますが、学生時代に歴史の教科書で、そういうものだと習っちゃってるから、思考がそこで停止して、それが間違っているかもしれないなんて、考えたこともありませんでした。
あれ?なんだかおかしいぞ?とすら思ったことがなかったのが不思議です。
そして、私の思い込みをひっくり返したのが、ソクラテスに関する著者の見解でした。
アテネの哲学に関していえば、ソクラテスはプラトンが創りあげたような人物とはほど遠い。ソクラテスは確かにデモクラシーに対して批判的であったが、プラトンのような貴族派の立場からではなかった。(中略)アテネでは外国人、奴隷、女性は「公人」となれない。それがアテネのデモクラシーなのだ。それに対して、ソクラテスはあくまで「私人」にとどまり、「正義のために戦った」のである。その意味で、彼の立場はイソノミア[1]の原理にあったということができる。彼はプラトンがいう哲学者=王とは無縁であった。ソクラテスを受け継いだ弟子は、プラトンではなく、むしろ犬儒派[2]ディオゲネス[3]に代表される外国人らであった
(第二部「世界=帝国」第三章「世界帝国」「世界史の構造」 (岩波現代文庫) 柄谷 行人 (著))
えー、そうなの?って感じですが、これもまた、言われてみれば、そうかもな、と。この本の結論は、この地球上に、いつか、世界共和国というものが実現してほしい、という著者の願いです。それを実現していくための道筋をつかむために、歴史を振り返ってるんですね。
それで、けっこう皆はアテネは理想的な国家だったと言うけど、現代の私たちが目指す形じゃないよね、と。
外に対しては帝国主義的略奪、内に対しては民主主義と福祉政策というのがアテネの民主主義であり、それゆえ、今日の国家の範例たりうるのである。しかし、その結果、アテネは他のポリスの反撥を招き、それらを代表したスパルタとのペロポネソス戦争に敗れて没落したのである
(第二部「世界=帝国」第三章「世界帝国」「世界史の構造」 (岩波現代文庫) 柄谷 行人 (著))
自国さえよければOKと、他国との関係を蔑ろにする例は、現在でも多いので、私たちはまだまだ歴史から学ぶことがあるんだな、と思いました。
今日も読んでくださってありがとうございます。
明日もどうぞよろしくお願いします。
参考
[1]^[Isonomia〈希〉]【政治】【歴史】古代ギリシャの民主政のこと.紀元前6世紀末のクレイステネスの改革によって始まった.「万民同権」「無支配」などと訳される.
“イソノミア[カタカナ語]”, 情報・知識 imidas 2018, JapanKnowledge, , (参照 2021-02-02)
[2]^(「犬儒」は {ギリシア}kynikos (「犬のような」の意)の訳語。古代ギリシアの哲学者シノペのディオゲネスがみすぼらしい身なりで町をさまよい歩き、樽(たる)を住居として「犬のような生活」を送ったことからいう)
哲学の学派の一つでキュニコス派の異称。アテナイのアンティステネスを祖とし、認識より実行を重んじ、欲望をおさえ、慣習や文化から独立した自然の生活をすることが正しいとした学派。キニク学派。犬儒派。
“けんじゅ‐がくは【犬儒学派】”, 日本国語大辞典, JapanKnowledge, , (参照 2021-02-02)
[3]^ディオゲネス (シノペの)Διογένης ὁ Σινωπεύς(Diogenēs ho Sinōpeus)前400頃~325頃
“ディオゲネス(シノペの)(Diogenēs)”, 世界大百科事典, JapanKnowledge, , (参照 2021-02-02)
ギリシアの哲学者。キュニコス(犬儒)学派の代表的人物で,いわゆる〈樽のディオゲネス〉として知られる。若いころ黒海沿岸のシノペSinōpēで贋金作りをしており,発覚してアテナイに亡命したが,その後も精神的な意味での贋金作り,つまり公認の価値と異なった価値の創造を行ったといわれている。アンティステネスの学統を受け継ぎ,いっさいの物質的虚飾を排し,最小限の生活必需品だけで生きる自然状態こそ,人間にとって最高の幸福だとした。衣服をつけず,靴もはかず,野犬のように街頭に寝泊りし,樽を棲家とし,公衆の面前で女性と交わったという。〈恥をなくすこと(アナイデイアanaideia)〉によって,あらゆる因襲,権威から解放されること,これが魂の〈自足(アウタルケイアautarkeia)〉を目ざす彼の哲学的実践であった。その弟子テーバイのクラテスKratēsは師説を広め,〈無所有〉こそ,いっさいの苦しみ,葛藤から逃れる秘訣とし,後のストア学派の前触れとなった。
世界史の構造のもくじ
序説 交換様式論
第一部 ミニ経済システム
1-序論 氏族社会への移行
1-第一章 定住革命
1-第二章 贈与と呪術
第二部 世界=帝国
2-序論 国家の起源
2-第一章 国家
2-第二章 世界貨幣
2-第三章 世界帝国 ←いまここ
2-第四章 普遍宗教
第三部 近代世界システム
3-序論 世界=帝国と世界=経済
3-第一章 近代国家
3-第二章 産業資本
3-第三章 ネーション
3-第四章 アソシエーショニズム
第四部 現在と未来
4-第一章 世界資本主義の段階と反復
4-第二章 世界共和国へ
参加者(2名)
- もんざ (主催者) 「世界史の構造」 (岩波現代文庫) 柄谷 行人 (著)
- にしやまさん 「定年前、しなくていい5つのこと」大江英樹(著)光文社