読書感想8. Trial&Error

「反知性主義」第6章 宗教なのに娯楽性が高い!

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読書感想
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今回は、第6章「反知性主義のもう一つのエンジン」について、気になったところと学習ノートを備忘記録として残しておきます。(9月の読書会までに、この本を読み終えて感想を共有する予定で準備をしています)

「反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体―」(新潮選書)森本 あんり (著)

第六章では、19世紀末にドワイト・ムーディ(1837-1899)によって、キリスト教がビジネスや娯楽と結びつけられていった様子が描かれています。正式な牧師としての資格はなくても、素朴な信仰心から、貧しい人を救うため、熱烈で魅力的な説話で人びとの心を癒し支持を集めたムーディは、大人気になりました。この時期が、キリスト教の第三次リバイバリズム(信仰復興運動)になります。

理想的な営業モデル

当時は、以下のような時代背景と状況だったので、ムーディの活動は、あっという間に大衆の心をつかみ、広がっていきました。

  • 時代背景:19世紀末、農業社会から工業社会への変化が始まる
  • 状況:移民が増加し経済格差も増大
  • 対象:都会で暮らす大衆(低学歴で孤独な労働者=既存の教会は敷居が高いと感じる人びと)

リバイバルによる回心が熱しやすく冷めやすいことを十分にわきまえていた。一夜にして変わったものは、また一夜にしてひっくり返る。(中略)そうであるからこそ、リバイバルは成長ビジネスとなる。一度の回心で誰もが聖人になってしまったら、この商売はやがて行き詰ってしまうだろう。しかしリバイバルは、いわば同じ客に同じ商品を何度でも売ることができる。営業モデルとしては、あらゆるセールスマンの最高の夢のようなビジネスモデルなのである。

(第六章 反知性主義のもう一つのエンジン 1.巨大産業化するリバイバル 「反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体―」森本 あんり  (著)   )

ムーディは、自らも貧しい家庭で育ち、努力して成功をつかんでいるため、反知性主義とは親和性が高そうです。実際に、彼が伝道する対象者とした人たちも、成功を夢見る貧しい一般大衆だったから、彼を身近な存在に感じて、支持した部分もある気がします。

ムーディは、教育が人を善良にすることはなく、むしろ教育を受けたならず者は余計にたちが悪い、と考えていた。(中略)要するに、社会階層も教育程度も低いメゾジストこそがイエスの褒めた「よきサマリア人」で、高学歴で高収入の長老派や監督派は冷淡な「祭司」や「律法学者」だ、ということである。(中略)反知性主義を根拠づけているのは、聖書自身に含まれている反知性主義なのかもしれない。

(第六章 反知性主義のもう一つのエンジン 1.巨大産業化するリバイバル 「反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体―」森本 あんり  (著)   )

面白いと思ったのは、「このような素朴な信仰は、原理主義化しやすく、そうなると批判に対する寛容さが失われる」という著者の指摘と、英国と米国のキリスト教の変化が異なるという点です。

  • 英国:ロバートソン・スミスの異端裁判(聖書を科学的に分析したのでスコットランド自由教会の神学部から追放された)以降、教養ある人びとがキリスト教への興味を失い、教会から知性が抜けていく
  • 米国:現在もビジネス・政治とキリスト教が密接に結びついている

教会は社交場

リバイバル運動はプロテスタントなのですが、これを支持しないカトリック、ユダヤ教、クエーカーなどの宗派へも入会希望者が増加するという効果があり、それでもプロテスタント側は特に残念にも思わないのは、教会を社交場のひとつだとアメリカ人が考えるからだと著者はいいます。

「アメリカのキリスト教が神学や教理といった原理的な違いで切り分けられているわけではない、ということを示すもう一つの証拠である。多くのアメリカ人にとって、教会とは当時も今も、社交的な交流の場なのである」

(第六章 反知性主義のもう一つのエンジン 2.信仰とビジネスの融合 「反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体―」森本 あんり  (著)   )

楽しめて今すぐ役立つ宗教

私の感覚では、宗教ってもっと厳かな神聖なイメージだったのですが、アメリカで一般的な宗教は、とっても世俗的です。ビジネスや政治とも密接につながっているのは、こうした状況によるのだということが、非常によく分かりました。

目的は宗教の復興であり、道徳の回復であり、社会の浄化である。人びとをそこへと駆り立てるには、しかめ面をした堅苦しい行事だけではなく、楽しみの要素も必要である。そうでなければ、教会に人は来ないからである。これが今日も続くアメリカ的なキリスト教の活力の秘密である

(第六章 反知性主義のもう一つのエンジン 3.宗教の娯楽化 「反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体―」森本 あんり  (著)   )

フランクリンの時代から次のサンデーにまで共通することだが、ムーディは信仰が富と成功を約束することを強調した。(中略)信仰は、いわば成功を担保する「霊的な保険」なのである。(中略)アメリカの説教者はいつも信仰が現世でどのような益をもたらすかを語る。アメリカ人は、利益に引かれて宗教に従うが、その利益を来世ではなく徹底して現世に求めるのである。そこに、反知性主義の息づく空間が広がっている

(第六章 反知性主義のもう一つのエンジン 3.宗教の娯楽化 「反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体―」森本 あんり  (著)   )

現在の苦しみを和らげるだけでなく、頑張れば報われる、成功できる、という希望を与えてくれるため、現実的ですよね。

日本の宗教界が置かれている状況と、アメリカの状況があまりに異なるので、驚いているのですが、かといって日本の状況も実は良く分かっていないのです。なぜ日本人は宗教への関心を失ってしまったのか、機会をみつけて調べてみたいです。

参考

Moody, Dwight Lyman(1837.2.5~99.12.22)アメリカの大衆伝道者.
マサチューセッツ州に生まれ,多くの兄弟を養うために早くから靴屋や旅行業などで働いた.シカゴで日曜学校を始めて伝道に従事するようになり,YMCA専従として南北戦争の戦場でも奉仕した.福音歌手のサンキーと出会い [1870] ,国内外を回る大衆伝道者となる.2人はイギリスで大成功を博し,帰国後も全米で大集会を開いて信仰復興運動を指導した.《サンキー・ムーディ聖歌集》や〈ムーディ聖書学校Moody Bible Institute〉などにその名を残す.

“ムーディ(Moody, Dwight Lyman)”, 岩波 世界人名大辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-09-14)

スミス【William Robertson Smith】
[1846~1894]英国の聖書学者。聖・俗の観念を社会的立場から考察し、宗教の比較研究法を開拓。著「セム族の宗教」など。

“スミス【William Robertson Smith】”, デジタル大辞泉, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-09-14)

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