今回は、第7章「ハーバード主義をぶっとばせ」について、気になったところと学習ノートを備忘記録として残しておきます。(9月の読書会までに、この本を読み終えて感想を共有する予定で準備をしています)
「反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体―」(新潮選書)森本 あんり (著)
ここでは、20世紀初頭にアメリカで一世を風靡したビリー・サンデー(1862-1935)という大衆伝道家の生涯を追うことで、キリスト教がビジネスと深く結びつき、キリスト教のメッセージがアメリカ化され、反知性主義が本来の性質を失っていく様子が描かれています。
ヒーローはきっかけを作る人
孤児院で育ったサンデーは、十分な高等教育も受けていませんでしたが、プロ野球選手になり、その後、資産家の娘と結婚して大衆伝道家になって成功し、まさにアメリカン・ドリームを実現したような人物でした。著者は、彼を20世紀の反知性主義のヒーローだと言います。
- 時代背景:20世紀初頭
- 状況:都市化が進み移民労働者が流入、ナショナリズムが隆盛
- 対象:大都市の大衆
反知性主義に限らず、大きな思潮のうねりには必ずそれを体現するヒーローがいる。ヒーローとは、社会に内在する批判の圧力を敏感に感じ取り、それを表現させるきっかけを作ってくれる存在である。人びとはそれを待っており、その機会を捉えて日頃のうっぷんを大いに発散させるのである
(第7章「ハーバード主義」をぶっとばせ 1.反知性主義の完成 「反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体―」森本 あんり (著) )
ここを読んで、アッと思ったのは、現在、BLM運動のヒーローになっているジョージ・フロイド氏のことでした。彼は、米国が作りあげた差別システムの犠牲者ですが、彼の死は、まさに、社会に内在する不平等に虐げられ続けた人びとに声を上げるきっかけとなりました。
知性の独占への反感
アメリカは、ヨーロッパの旧体制を嫌って、新天地を求めて入植した人びとが起源なので、歴史的に権威があるものを否定して対抗し、新しい理想を作りあげることに価値を見いだしています。これは知性を否定することではなくて、権威者が知性を独占することへの否定でした。
トクヴィルがここで注目しているのは、単に高等教育を受けた知的エリートが存在しない、ということではない。それを代々世襲で受け継いでゆく「知的特権階級」が存在しない、ということである。これがアメリカを旧世界から分かつところである。
(第7章「ハーバード主義」をぶっとばせ 2.知性の平等な国アメリカ 「反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体―」森本 あんり (著) )
世俗化することの良し悪し
アメリカでは憲法で政教分離が明確に示されています。教会が大衆向けにがんばって活動しなければ生き残れなくなったのは、政教分離が進んだことが原因でした。教会は国民の税金ではなく、自分たちでお金を集めなければ継続できなくなったのです。
そのため、ビジネス的な思考で人集めをするようになるわけですが(このために、アメリカのキリスト教が現在でも活発なのではないか、と著者は指摘しています)それはキリスト教という宗教を、アメリカ人にとって都合の良い形に仕立て上げることにもなりました。
日曜日には、そもそも教会に行くか、それともショッピングや映画に行くか、という選択もある。(中略)教会は他の多くのエンタテインメントと「お客」を取り合う、という事態を避けることができなくなった。教会は、楽しくなければならないのである。それも、一度だけの楽しみではなく、持続的に参加してその一部分を担いたいという気になるほどに、楽しくなければならないのである
(第7章「ハーバード主義」をぶっとばせ 3.アメリカ史を貫く成功の倫理 「反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体―」森本 あんり (著) )
アメリカでは「信仰」と「道徳」がほぼ同義語になってしまっています。
またこの「信仰」というのも、自分にとって都合がよい願い事をかなえてもらうための「ご利益信仰」です。
宗教と実利という二つの成分要素で成立したはずの反知性主義は、まさにその大衆的成功のゆえに、本来の反エリート主義的な性格を失ってゆく。
(第7章「ハーバード主義」をぶっとばせ 3.アメリカ史を貫く成功の倫理 「反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体―」森本 あんり (著) )
成功者となったサンデーは、自分自身が権力構造の中に取り込まれていき、それゆえ、反知性主義から外れていくんですね。このあたりは、先日読んだハラリの21Lessonsを思い出したりしていました。無知を恐れるなら、中心に近づくのではなく、できるだけ周辺に留まる努力をしろ。つまり、自分が権力の中に入ってしまったら、自分の無知に気づくことが困難になるからです。
結局のところ、知性とは、自分の無知に気づけるかどうか、振り返りができるか否かという点だと思うのです。
アメリカ人は、世俗的な成功は神様が自分を祝福していることの証明だ、と考えるらしいのですが、私の中で、どうしても、その思考方法はしっくりこないんですよね。自己中心的すぎる気がするし、何か違和感があるんです。そのしっくりこない理由は、どこにあるのか、ちょっと、これも掘り下げなきゃいけない気がします。
参考
Sunday, Billy 本名:William Ashley S. 1862.11.19~1935.11.6
“サンデー(Sunday, Billy)”, 岩波 世界人名大辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-09-15)
アメリカの大衆伝道者.
アイオワ州の貧家に生まれて孤児院で暮らしたが,プロ野球選手となり大リーグで7年活躍.1886年に回心,伝道者への転身を決意し,年俸3000ドルの球団契約を断りシカゴYMCAで月83ドルの奉仕職に就いた.独立伝道者となり,はじめ出身地の中西部を回ったが,資金と組織力をもつ妻に助けられ,やがて大聴衆を集める信仰復興運動の説教家として全米に知られるようになった.説教の内容は伝統的で道徳主義的なカルヴィニズムそのものだが,乱暴な仕草や言葉を使い壇上を走り回るなどスタイルは過激で,知的な教会人には敬遠されたが大衆には好まれた.禁酒法の強力な推進者でもあり,大統領や政財界の有力者とも親交があった.
Tocqueville, Alexis Charles Henri Maurice Clérel, Comte de 1805.7.29~59.4.16
“トクヴィル(Tocqueville, Alexis Charles Henri Maurice Clérel, Comte de)”, 岩波 世界人名大辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-09-15)
フランスの政治学者,歴史家,政治家.建国後間もないアメリカ合衆国を旅行して [1831-32] 《アメリカのデモクラシー▼:De la démocratie en Amérique, 4巻, 1835-40》を執筆.その中で活動しつつある民主制の本質的機能を分析した結果,その中核をなす平等の原則が実現されるにしたがい,かえって社会的権力による専制が生まれる危険性を説いた.正統的自由主義の代表的思想家.
プラグマティズム:アメリカの最も代表的な哲学。日本では〈実用主義〉と訳されることがあるが,この訳語はこれまでプラグマティズムに関して多分に誤解を招いてきており,最近ではこの訳語を使う人は少ない。プラグマティズムは哲学へのアメリカの最も大きな貢献であり,実存主義,マルクス主義,分析哲学などと並んで現代哲学の主流の一つである。プラグマティズムを代表する思想家にはC.S.パース,W.ジェームズ,J.デューイ,G.H.ミード,F.C.S.シラー,C.I.ルイス,C.W.モリスらがいる。プラグマティズム運動は〈アメリカ哲学の黄金時代〉(1870年代~1930年代)の主導的哲学運動で,特に20世紀の最初の4分の1世紀間は全盛をきわめ,アメリカの思想界全体を風靡(ふうび)するとともに,広く世界の哲学思想に大きな影響を与えた。1930年代の半ばごろから外来の論理実証主義,分析哲学がアメリカの哲学を支配するようになってプラグマティズム運動は退潮したが,パース,ジェームズ,デューイらの古典的プラグマティズムはアメリカの思想界に深く根を下ろし,依然大きな影響力をもっている。
“プラグマティズム”, 世界大百科事典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-09-15)
プラグマティズムについては、第二次世界大戦後の日本でも流行しましたが、これもキリスト教がアメリカで土着化したように、日本で土着化しました。それは、何で読んだんだっけ?