「Parasite」(邦題「パラサイト 半地下の家族」)という韓国映画を見たので、感想を記録しておきます。(2020年2月27日 @ROBINSONS GALLERIA ORTIGAS)
DIRECTER | TITLE | YEAR | GENRE | TIME | SCORE(IMDb) |
Bong Joon Ho | Parasite (Gisaengchung) | 2019 | Comedy, Drama, Thriller | 2:12 | 8.6 |
この作品は、現代の韓国を舞台にして描かれたブラックコメディで、2019年第72回カンヌ国際映画祭の最高賞を受賞し、2020年第92回アカデミーで作品賞、監督賞など4部門を受賞しています。
上映時間は2時間12分なのですが、物語に引き込まれて中盤までは、あっという間に時間が過ぎます。「あれ?ここからどうやって結末にもっていくんだろう?」と急に現実に引き戻されて、初めて腕時計を確認したのが1時間半ほど過ぎたころ。 韓国語を聴きつつ、英語字幕を読んでいたので、私の眉間にはずっとシワがよっていた気がするけれど、最後まで楽しめたのは、奇想天外な脚本の力だと思います。
最初のころ、全体に漂う雰囲気が是枝裕和監督の「万引き家族」(第71回カンヌ映画祭の最高賞)に似ている気がしたのは、主要な登場人物が貧しい一家だからかもしれません。貧しい一家がみすぼらしい住居で、なんとか暮らしている様子に既視感がありました。とはいえ、それは最初のほうだけで、物語が進むにつれて、ブラックコメディの要素が濃くなり、徐々にその感覚が薄れましたけれども。
(でも、こちらの映画評論を読むと、やはり「万引き家族」を意識して製作されていたようです)
映画の見どころの一つは、貧困層と富裕層の対比です。半地下に住む貧しい4人家族、父(キテク)、母(チュンスク)、兄(キウ)、妹(キジョン)と、建築家が設計した豪邸に住むパク一家(父ドンイク、母ヨンキョー、姉ダヘ、弟ダソン)。同じ家族構成なのに、お金持ちか、貧乏かで、どこまで世界が違って見えるのかを観客はカメラの目線から眺めます。貧しい一家の食事の場面、内職仕事のエピソードなどでは、荒んだ生活でも、この一家が家族愛で結びついているように描かれています。物語のスタート地点で、多くの観客はこの貧しい一家に感情移入し始めるでしょう。貧しくてもお互いに信頼しあって助け合う家族の話は、世間一般では美徳の部類に入りますよね。でも、その彼らの行動が徐々にエスカレートすると、貧しいから仕方がない、と笑って言い訳できる範囲を越えていきます。
この映画のもう一つのキーワードは「におい」なのですが、観客に匂いは伝わりません。物理的な意味では、映画ですからもちろん伝わるわけがないんですが、匂いが伝わる映像ってありますよね?でも、この映画から、なぜか私はにおいがイメージできませんでした。単に私のイメージが貧困だからか、映像が明るすぎるためか、俳優さんがこざっぱりしているせいか、舞台が韓国だからなのか、理由はよく分かりません。「万引き家族」を見たときは、古い日本家屋とか、駄菓子屋、スーパーマーケット、大雨、食事の場面などでも匂いを感じたのですが、リアリティに関する演出の違いかもしれません。
現実的なことを、よくよく考えると、こんな疑問がすぐに思い浮かびます。大学生ほどの年齢になっている兄キウ、妹キジョンならば、何かしら仕事を見つけられないのだろうか?健康で若くて、しかも頭の回転も人をだませるくらいに速く、パソコンも器用に使いこなせて、会話も上手なのだから。失業して無気力な困った両親と一緒に暮らす必要もないし、さっさと独立して、必要があれば両親に仕送りするほうがよほど合理的で、快適な暮らしができるのではないか?と。たぶん、私が兄キウだったら、父母を嫌悪するだろうし、絶対に一緒に暮らさない。
しかし、まぁ、そんなことを言っていると、映画というおとぎ話が描けなくなるし、観客がそこまで考えていると、たぶん物語が楽しめません。。。実際には、私も見ているときは、物語に引き込まれていたので、そんなことは、まったく気にならず、こうして振り返って考えると、あれ、つじつまが合ってないかも?と疑問がわいてきただけなのです。コメディとしての演出からスタートしているので、非現実的なことも無意識のうちに容認できる下地が観客の心に作られるのだと思います。本当に上手に現実を忘れさせてくれる映画でした。
映画に登場する住居は、実在のものではなく、全てこの映画のために作られたセットなのだと知って、驚愕しました。あの半地下の住居も、豪邸も、この映画のために作られたのだと知ると、もう一度、映画を見てみたい気持ちになります。 この作品は、笑い、恐怖、性、暴力、悲哀など様々な感情を揺さぶる要素があり、先の読めない展開だったので、見終わった瞬間、久々に本当によくできたミステリー小説を読み終わったような満足感がありました。
R-13なのでお子様むけではなく、オトナが楽しむエンターテインメント映画です。コメディから始まり、途中から一転してサスペンスドラマになって、最後はミステリーの要素を加えつつ、家族愛でエンディング。寄生される側に感情移入すると居たたまれない気持ちになると思いますが、寄生する側に感情移入すると、かなりドキドキハラハラできます。
疑問
- 途中からのストーリー展開が少し雑になり無理があった感じ
- 倫理的に考えると、被害者家族の被った理不尽さが哀れ
高評価
- 映像やアングルが斬新
- 展開が早く観客を飽きさせない娯楽性の高さ
- 伏線の張り方が絶妙
- 登場人物の対比が象徴的(富裕層と貧困層)