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映画「輪廻の少年」(2017)

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「 BECOMING WHO I WAS 」(邦題:輪廻の少年)というインド北部の山岳地帯ラダックを舞台にしたドキュメンタリー映画を見たので、感想を記録しておきます。8年の歳月をかけて丁寧に撮影された心温まる作品で、インド北部の美しく厳しい自然を映像で味わうとともに、インドの大都会、バラナシの雑踏や、中国のチベット弾圧の実情も体感できます。

あらすじ

舞台はインド北部のラダック州サクティ村。2009年少年アンジュ・パドマ(Angdu Padma)は5歳のとき幼年僧として、僧侶で教師、伝統医でもあるリグジン・ウルギャン(Rigzin Urgain)のもとにやってきます。僧侶としての慣れない生活にも、すぐに慣れたアンジュは、リグジンに自分の前世の記憶を語り出します。

前世では、 中国チベットのカムで自分の寺を持っており、弟子たちが迎えに来てくれるはずなのだ、というのです。それを聞いたリグジンは驚いて、アタクというリンポチェ(高僧)に相談に行きます。するとアタクは、彼はゾクチェン・グルメット・ナトン・ワンボーという偉大なチベットの高僧の生まれ変わりで、前世では精神を共にする親友だったというのです。そこで2010年6歳のときにアンジュはリンポチェに即位するのですが、待てど暮らせどチベットの寺院から迎えは来ません。

2016年12歳になったアンジュは、高僧の修行をするため中国チベットのカムを目指して、リグジンとともに旅にでます。

Map Ladakh
ラダックからシッキムまでの地図。徒歩で二か月。

経路を検索したところ、ラダックからシッキム(インドと中国の国境の村)まで1609マイル。(約2581キロ。 日本の総延長が東西・南北にそれぞれ3000㎞ なので、それと比較すると彼らの移動距離がイメージしやすいですね)車で50時間の道のりを、12歳のアンジュと、おそらく60代だと思われるリグジンの二人は2か月かかって歩いて行きます。

信仰を持つ人のたくましさ

中国政府によって僧侶が殺害されているチベットへ向かうことは危険を伴うと分かっているリグジンの心中は穏やかではありません。しかし、それが運命であれば受け入れる。アンジュが5歳の時に幼年僧として自分の前に現れたことも運命だろう。であれば、アンジュを支え助けることが自分の使命だとリグジンは考えたのかもしれません。

私達は何のために生きているのでしょう。物質的な豊かさに恵まれて、冷暖房が完備された家に住み、食べるものにも困らず、平和で安全な生活ができる日本ですら、多くの人々の心は満たされていないようです。

それに比べてラダックという貧しい寒村に住む彼らは、物質的には貧しくとも、信じられないほど強靭な精神を持っています。アンジュの世話役として、苦労しながらも彼に惜しみない愛情をそそぐリグジンの姿が幸福そうに見えるのは私だけではないはず。

カメラの存在を感じさせない

このドキュメンタリーが素晴らしいのは、登場する人々がとても自然な表情で感情を表すことです。まるでそこにカメラやカメラマンが存在しないかのようです。

リグジンが1週間出稼ぎに行き、一人で生活することになったときのアンジュの姿。アンジュに、なぜ僕たちはこんな狭い家で暮らさなければならないのと質問されたときのリグジンの痛々しい表情。旅立ちを母親に告げ、泣かれたときのアンジュの驚く顔。アンジュとリグジンの最後の別れの場面。ラダックでの雪合戦を懐かしんでおどける二人だけれど、リグジンは感極まって立ち上がれなくなって俯いたままの姿勢で動かない。

忘れられない印象的な場面がたくさんありましたが、それらはすべて撮影スタッフが、彼らに干渉しすぎず影のように自然に寄り添っていたかを示すものだと感じました。

詳細

DirectorTITLEYEARGENRETIMESCORE(IMDb)
ムン・チャンヨン
チョン・ジン(共同監督)
Moon Chang-Yong
Jeon Jin(Co-director)   
輪廻の少年
Becoming who I was
2017Documentary 1h 35min8.2/10

監督情報(Director’s Bio)

ムン・チャンヨン (Moon Chang-Yong)は、韓国人の映画監督。1998年から韓国の主要放送局でドキュメンタリー作品を制作している。(こちらを参照)

Moon directed TV documentaries for 18 years and made Becoming Who I Was, his first feature documentary shot over an 8-year period. His TV documentaries include: Steel Root (2011), The NLL Borderline (2012), and A Shop That Sells Happiness (2013). Moon is currently working in both film and TV. ムーン氏は、18年間にわたってテレビ・ドキュメンタリーを監督し、8年間かけて撮影した初の長編ドキュメンタリー「 輪廻の少年 」を制作。彼のテレビドキュメンタリーには、「Steel Root」(2011年)、「The NLL Borderline」(2012年)、「A Shop That Sells Happiness」(2013年)などがある。現在、彼は映画とテレビの両方で活躍している。

MOON Chang-yong KOFIC

Both Jeon and Moon have backgrounds in television with Jeon having produced human-interest documentaries for local broadcasters, which include “Golden Ratio Unveiled” (2014) and the award winning “1 Hectare of Happiness” (2013).ジョンとムーンはどちらもテレビのバックグラウンドを持っており、ジョンは「黄金比の発表」(2014年)や受賞歴のある「1ヘクタールの幸福」(2013年)など、地元の放送局向けにヒューマンインタレストのドキュメンタリーを制作しています。

Moon meanwhile has been a documentarian since 1998 and his accolades include “Extreme Job” (2009) and the three-part documentary series titled “Steel Route: the History of Civilization” (2011). 一方、ムーンは1998年からドキュメンタリーを務めており、彼の称賛には「Extreme Job」(2009年)と「Steel Route:The History ofCivilization」(2011年)というタイトルの3部構成のドキュメンタリーシリーズが含まれます。

Jeon ,who has lived in ten cities spanning four countries, is delighted with the award they received in Berlin. 4カ国10都市に住むチョン氏は、ベルリンで受賞した賞に喜んでいる。

“Becoming Who I Was” is a courageous journey of self-discovery By Jason Bechervaise 2017-03-06 The Korea Times

共同監督チョン・ジン (Jeon Jin)は、アフリカで育った韓国人の映画監督。ケープタウン大学でメディア研究&実践の修士号を取得。現在はJ.J Productionsに所属し、韓国の主要放送局でドキュメンタリーを制作している。主要作品は以下のとおり。(ご本人のLinkdinを参照)

  • 2013 Hectare of Happiness ( ドキュメンタリー ) KBS Prize for Excellence
  • 2017 Becoming Who I Was ( 長編ドキュメンタリー )

Becoming Who I Was Documentary Director Jin Jeon Interview

参考

チベットを中心にして中国西北辺や東北部、内外モンゴルに広まった密教系の仏教。ラマ教ともいう。ゲルク派、カギュー派、サキャ派、ニンマ派の四大宗派がある。ゲルク派のダライ・ラマは16世紀以降、チベットのラサに君臨してきた宗主であり、観音菩薩の化身が転生した生き仏、転生活仏として信じられている。その代替わりには、この地方の新生児のうちから特別の瑞相(ずいそう)をもった者が秘儀を通じて選ばれる。現在のダライ・ラマ14世は、1959年のチベット動乱以降、中国政府と対立して、インドに亡命政権を樹立して自治を要求している。
カギュー派の転生活仏カルマパ17世は、2000年1月の厳寒期にヒマラヤを越えてインドに出国し、ダライ・ラマの亡命政権のもとに留まっている。ゲルク派の阿弥陀如来の生まれ変わりとされ、ダライ・ラマに次ぐ地位にある転生活仏パンチェン・ラマ11世を1995年にダライ・ラマと中国政府が別々に選定して、併存した状態が続いている。中国政府はダライ・ラマの認定した少年を無効として監禁下に置き、政府認定の子供を国内の仏教聖地、五台山などを歴訪させたり、北京のチベット仏教寺院・雍和宮で活仏30人の拝礼を受けさせたり、モンゴルの仏教代表団と接見させたりして、パンチェン・ラマとしての正統性を確立しようとしている。

“チベット仏教[宗教]”, 情報・知識 imidas 2018, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2021-08-22)

中華人民共和国建国から数年でチベットはその支配下に組み込まれた。だが、1959年3月チベット自治区の区都ラサで大規模な民族運動が発生し、それ以降ダライ・ラマ14世はインドに亡命し中国政府と対立状態にある。中国のチベット人居住地域では、80年代以来数多くのデモが発生した。現在ダライ・ラマは中国政府に対し高度な自治をチベット人自身に管轄させることを要求しており、独立要求に固執していない。2008年3月ラサで僧侶と当局の間で衝突が起こり、多くの犠牲者を出した。これに対する抗議活動が世界各国での北京五輪の聖火リレーに向けられた。ダライ・ラマは五輪開催を支持する一方、対話を中国政府に申し入れた。08年5月から特使と中国政府との対話がスタートしたが、その後途絶えた。チベット亡命政府では11年8月、ダライ・ラマに代わって執政を行う新首相にロブサン・センゲが就任し、中国政府との対話を申し入れたが、実現していない。ダライ・ラマも18年で83歳となり、後継問題が取り沙汰されている。

“チベット問題【2019】[中国【2019】]”, 現代用語の基礎知識, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2021-08-22)

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