アジアン・ドキュメンタリーズのセルフスタディ・ナビ、第6回の講義映像を見たので、備忘記録を残しておきます。
第6回の講師三井さんはかなり好意的にインド社会とそこで働く人々を捉えていますので、真逆の視点で撮影されたドキュメンタリーも合わせてみると、バランスがとれる気がします。私は、2017年に山形国際ドキュメンタリーフィルムフェスティバルでみた、織物工場で搾取される労働者の実態を描いたこの映画の印象を強く持っていたので、インドの労働者は過酷な暮らしを強いられているっていう先入観を持っていました。(“Machines” directed by Rahul Jain(2016))
でも、三井さんの写真を見て、その美しさに感動して、物事ってそんなに単純でも一面的でもないなぁと思ったのでした。
同じ場所にいても、そこで何を見て感じるかは人によって全然異なるんですよね。
第一部(15分)三井昌志(写真家)さんの仕事観とアドバイス
バイクでインド中を旅しながら働く人を10年以上撮影している三井さんが、働くこと、仕事について、インドと日本の文化を比較しながら語っている。前半はインドの話、後半は若い人たちへのアドバイス。
- インド人の世界観、人生観は川の流れのよう。
- 何十年何百年と続く仕事の流れが感じられる。
- 道端で、耳を掃除して10ルピー(1ルピー約1.5円)を稼ぐ仕事をしているおじさんがいて、暮らしていけるのかな、と思うけれど、毎年インドを訪れると、同じおじさんが毎年それを続けているのを見る。
- そういう人たちでも生きていける余地があるのがインドだ。
- インドは階級社会ではあるけれど、きわめて寛容な社会だと思う。
- 自分の境遇を他人と比べない。
- インド人は運命を受け入れる。(だから貧富の差が)
- それに比べて、日本人は他人の成功を妬み、他人との比較に苦しむ。
- それはみんな平等だという考え方から生まれる副作用のようなものだという。
- 好きなように働いて生きればいいと思う。
- こういう生き方しかダメという日本が息苦しく感じる。
- インドではサドゥーという、何もかも捨ててしまう修業僧のような人がいる。
- グルとして尊敬を受けている世捨て人だが、ある意味では何をしているか分からないし物乞いと変らないような人。
- お父さんの名前、お母さんの名前を尋ねたら、忘れたといい、インドに住んでいる全ての男が自分の父で、全ての女が自分の母だと真面目な顔でいう。
- そういう変なおじさんでもインドでは生きていけるし、ある種の尊敬を受けている。
- そういう人も生きていける懐の深さが好きだ。
- 年を重ねるにつれて捨てる・身軽になるのが、インド的な考え方。
- 働いている期間があり、それが終わったら修業の旅にでて、その後は死に向かう期間がある。人生のフェーズが分けられている。
- 仕事からも解放され、家族からも解放され、自由になっていく、それがある種の理想郷だという価値観がある。
- みんなが皆そうではないが、サドゥーの人たちはそれを実現している。
- インドの在家の人たちも、そんなことは自分はできないけれども、裸一貫の人を尊敬するインドの人生観がある。
- インド国民の86%がヒンドゥー教だが、ジャイナ教という、ヒンドゥー教以前、2500年くらい前に成立した宗教を信じる人々もいる。
- ジャイナ教の出家者は男性だけだが、全裸で、ものを一切もたず、虫も殺さないし肉も食べず、はだし、はだかでペタペタ街中を歩いている。
- しかし奇異な目で見られることもなく、偉いお坊さんだと尊敬されている。
- 日本は豊かで、幅広い選択肢があり素晴らしい国だ。
- 大学にも行けるし、どんな職業も選べる。誰もが才能があれば、何にでもなれると思っている。
- しかし、インド人は日本人のような考え方をしない。
- 子どもは基本的には親の職業を継ぐ。
- インド社会では、人は共同体が決めた役割を果たすことが当然だと思っている。
- ITで財をなす人もいるけれど、それはごく一部だ。
- 才能があればなれるけど、普通の人はそうじゃないとインドの人は分かっている。
- 日本人は誰もかれも夢を求めて、頑張って考えて成功しなさいよ、といわれる。
- 選択肢を持って、それを実現できる環境にいる人にとっては、良い環境だが、何していいか分からないという人にはプレッシャーかもしれない。
- インドにも、何していいか分からない人は多い。それでも、とりあえず働け、耕せ、その中で自分の幸せを見つけようとする。
三井さんは自分の経験から、みんなもっと迷っていい、という。彼はなろうと思って写真家になったわけではないからだ。
大学を卒業して京都で2年会社員をやり、半年ニートをやって、旅にでて、写真を撮るようになり、それから17-18年経つが、いまなお、自分の人生はこれでOKと思ったことはないし、成功したとも思っていないし、この先5年後10年後、写真家を続けていられるかも、分からないという。
でも、来年俺大丈夫だろうか、家族を食わしていけるだろうか、と不安になることが普通になっている。それがふつうになっているから、それを不安だとは思わないのだそう。
30歳になるまでに結果を出そうと思って29歳で写真集を出して、写真家を名乗って活動しているが、例え30歳、40歳を越えていても、十分人生は変えられると三井さんはいう。このビデオや映画を見ている人たちは10代、20代そこそこの若い人たちだと思うから、何をやっていいのか分からなくても全然気にしなくていい、とのこと。やりたいと思うことが見つかったら、成り行きに身をまかせて頑張ってみて、そこから、違うと思ったらまた進路を変えてもいいし、10代で、これをがっちり決めてやらなきゃ、何者にもなれないと決めつける必要は全くない、と迷える若者たちに、肩の力を抜いていいよ、というアドバイスをされていた。
第二部(15分) 講師6名の仕事観とアドバイス
これまでのセルフスタディ・ナビを担当した講師6名の仕事観と若者たちへのアドバイス。
「あなたは何のために働きますか」「働くということについて10代~20代の若者に伝えたいこと」
第1回講師:小谷勝彦(NPO法人国際環境経済研究所理事長)
「思いがけない経験値を積み重ね後世に伝える」
一人でできることと、集団・組織でできることは違う。 最初は我慢して会社に入れればいいなくらいだった。
それから40年以上働いてきた。 色々な経験をすること。 自分ひとりで出来ないことを組織で実現できた。
思いかけない経験値を積み重ね、 それを後世の人や若い人に伝えることができたら素晴らしい。
第2回講師: 青山弘之(東京外国語大学教授)
「自分の好きなことを極めよう」
まずは自分が好きなことをする。 社会の人が全く関心を持たなければそれは仕事とはいえない。
自分と社会のバランスが仕事を決める。
大学教授の仕事は、社会にどのような恩恵・効果があるか非常に分かりやすいが、そういう仕事ばかりでもない。
分かりにくい仕事もあるかと思うが、しくみは同じだと思うから、何よりも、自分の好きなことを極めよう。
それから社会は家族でもいいし、天下国家でもいい、それにどのような効果があるか関係を考えてみるといい
第3回講師: 高遠菜穂子(イラク人道支援コーディネーター)
「 道がなければ道をつくれる 」
私は30歳から今の仕事を始めた。 それまでは仕事は経済活動だった。 30歳で、10代の頃から本当にやりたかったことを始めて変わった。経済活動は一番じゃない、二番みたいなかんじ。 一番は人間として人生をかけてやるべきこと、 全身全霊で、授かった命をかけてやるべきことだと、 30歳でインドへ行ってわかっちゃった。 そのあとイラク戦争が起こって人生が変わった。そこから後は辛いけどずっと一本道。
30年前は国際協力なんていっても、ハードルが高すぎて何やっていいか分かんないって感じだったけど、いまはそんなことない。
道がなければ道をつくれる。 ツールもそろっているし、環境も30年前とは全然違う。 可能性は無限。
国際協力を目指す人も自分なりの全く新しいスタートアップをしてもいいし、何も現地に行くことだけが国際協力ではない。
現代はもっとやりやすくなっている。 若い人たちには、これまでの世代が思いつかなかったことを実現していってほしい。
あらゆる経験が仕事に役立つ。 分からなくて入った道でも一本道につながっているかも。
どんな畑にいても世界につながっている。 いろいろな仕事を楽しみながら世界とつながってほしい。
第4回講師: 村田早耶香(認定NPOかものはしプロジェクト共同創業者)
「仕事でワクワクするか」
基本的には、自分のやりたいことをやっている。自分が何を成し遂げたいのかを判断基準にしている。仕事でワクワクするかどうか。
大学を卒業してすぐにカンボジアにいったのでちょっと特殊かもしれない。
尊敬している経営者から言われた言葉が人生を変えた。
自分が亡くなるときに、本当に自分は自分だったかと問われたとき、どのように答えるかという質問だった。
自分は、6歳の被害者の子どもと会って、その子のことが気がかりだったのだけれど、それをそのまま何もせず心に留めたまま、人生を終わるのがいやだったので、行動することができた。
第5回講師: イリハム・マハムティ(特定非営利法人 日本ウイグル協会代表)
「 お金儲けのためだけの仕事は寂しい 」
私にとって働くとは自分にとってやりたいことをやること。まずは自分がやりたいことをやる。
お金儲けのためだけの仕事は寂しい。人のために役立つのが仕事。人のためになる仕事をするのが一番充実した働き方だと思うし、もっとやる気がでる。人の役にたつことが喜びだ。
第6回講師: 三井昌志(写真家)
「ええもんみつけたなと思えるか」
好きな時に好きな旅をして好きな写真を撮って暮らしていけるなんて、こんな幸せなことはない。
よく次の夢は?次に何をしたいか、と聞かれる。 ぼくはこんな幸せな仕事を少しでも長く続けられるのが目標。
「この仕事を長く続けたいと思えるか」 自由であるということが自分にとって一番大切。
たとえ2倍3倍のお給料をもらっても自由を失うなら意味がない。 自分が美しいと思えるものを世に問い続けることができるなら最高。
ええもんみつけたなと思えるかが大切。