読書感想8.1. ふとした気づき8. Trial&Error

「水月」川端康成(1953)愛情とは何かを考える短編

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読書感想
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1953年(昭和28年)に発表された川端康成の短編小説「水月」(すいげつ)を読みました。結婚2か月目から夫が寝たきりになり、その後、夫が死ぬまで看護をした京子の視点で描かれた物語です。(筑摩書房「現代日本文學大系 52」あるいは新潮社「川端康成全集 第8巻」に収録あり)

原作と翻訳の読み比べ

川端康成の著作権は2021年現在で切れておらず、また「水月」は全集などに収録されています(公共図書館のオンライン蔵書目録で確認)。しかしkindle版の文庫本などへの収録が確認できませんでした。そのため、原文は、こちらのブログを参考にさせていただきました。

自分の顔が見えたら、気でも狂うのかしら。なんにも出来なくなるのかしら。

筑摩書房「現代日本文學大系 52」 川端康成集

”Suppose you could see your own face, would you lose your mind? Would you become incapable acting?”

The Moon on the Water By Yasunari Kawabata TRANSLATED BY George Saito (Modern Japanese Short Stories: An Anthology of 25 Short Stories by Japan’s Leading Writers)

日本語版を手に入れることが難しいので、英訳しか読んでいませんが、とても読みやすく、情景が目に浮かぶ美しい描写です。主人公である京子の揺れ動く心情が丁寧に描かれています。

新婚2か月目から病で寝たきりになった夫は手鏡で、空を飛ぶ鳥や、輝く朝日、畑で働く京子の姿を眺めることが唯一の楽しみになっています。二人は鏡の中の世界を共有することで信頼関係を保っているように見えます。ところが京子はある時、鏡を見続けることには、メリットとデメリットがあるのではないか、愛する夫に手鏡で架空の世界を眺めさせることは、彼をやがて傷つけるのではないか、という思いに囚われます。

After heavy rains they would gaze at the moon through the mirror, the reflection of the moon from the pool in the garden. A moon which could hardly be called even the reflection of a reflection still lingered in Kyoko’s heart.

The Moon on the Water By Yasunari Kawabata TRANSLATED BY George Saito (Modern Japanese Short Stories: An Anthology of 25 Short Stories by Japan’s Leading Writers)

大雨の後に、庭の池に映る月を手鏡で一緒に鑑賞する京子と夫だけれども、京子の心には、月の反射が届かないようです。京子は現実世界に残るけれど、夫はすでに別世界の住人になりかけていることを象徴しているかのようです。

日本では風流な印象が強い月ですが、英語ではLunatic(狂気)をイメージさせるため、英語圏の人はこのあたりの文章をどう感じるのか少し気になりますね。

読み終わって気づいたのは、京子と病いの夫の間に育まれた愛情は、手鏡を通じて生み出された共通の物語を一緒に味わった時間とともに醸成されたものである、ということでした。

いつか図書館で原作を日本語で味わいたいですね。

すい‐げつ【水月】
1 水と月。2 水面に映る月影。「江上の―」「鏡花―」3 人体の急所の一。みずおち。4 軍陣で、水と月が相対するように、両軍が接近してにらみ合うこと。

“すい‐げつ【水月】”, デジタル大辞泉, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2021-09-02)

すい‐げつ【水月】 川端康成が1953年に文藝春秋に発表した短編小説。手鏡が重要な小道具として全編を貫いており、終わり近くで水面に映る月が象徴的に扱われている。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

著作権が切れるのは2042年

川端作品の著作権が切れるのは、死後70年になるため、2042年です。青空文庫で無料公開されている作品はありません。アマゾンのアンリミテッドで読める作品もありません。 

参考

川端康成(かわばたやすなり)1899-1972(明治32-昭和47)

小説家,評論家。大阪市生れ。一高をへて東大国文科卒。第6次《新思潮》に発表した《招魂祭一景》(1921)の新鮮な感覚を菊池寛らに認められて文壇に出た。横光利一らと新感覚派の機関誌《文芸時代》に拠り,新感覚派が昭和初期に腐食してしまったあとも新感覚派的手法を生かし続けた。《浅草紅団(くれないだん)》(1929-30),《禽獣》をへて到達した極点に《雪国》(1935-47)があり,近代抒情文学の代表作品となった。この《雪国》と戦後の《千羽鶴》および《古都》(1961-62)の評価により1968年に日本人最初のノーベル文学賞を与えられた。受賞記念講演《美しい日本の私--その序説》は日本美の精髄と西欧的ニヒリズムと違う虚無を説いた。72年4月に仕事部屋で自殺した。

“川端康成”, 世界大百科事典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2021-08-25)

検索して見つけた「水月」についての読書感想文と論文。

「水月」川端康成(奈々のこれが私の生きる道!)

水中の月、鏡の中の情(笹川杯 本を味わい日本を知る作文コンクール2020)

川端康成作品分析「化粧」「ざくろ」「水月」Analyses of Three Short Stories of Kawabata: Make-up, The Pomegranate and The Moon on The Water

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