今回は、ハイエクの「貨幣発行自由化論」の第1章「具体的な提案」から、気になったところのメモと学習ノートを残しておきます。
「貨幣発行自由化論 改訂版――競争通貨の理論と実行に関する分析 」
フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) (著), 村井 章子 (翻訳)
(10月の読書会までに、読み終えて感想を共有する予定で準備をしています)
貨幣発行を自由化
一国一通貨って当たり前。政府が通貨を管理するのも、当然のこと、というか、むしろ何にも考えたことすらありませんでした。でも、それって本当に当たり前のことですか?という疑問をハイエクは読者に投げかけます。巻末に十項目の興味深い議論のテーマが掲げられているのですが、その一番目の問いがこれです。
問い① 本当に、一国の通貨はただ一つだけで、それは政府が管理すべきものなのか
もし、様々な通貨が、どの国にいても同じように使えたら便利だよな、と一瞬思ったのですが、あれ、でも、現在はクレジットカードやデビットカードを使えるので、海外でも日本国内と同様に買い物ができたりするし、そんなに不便じゃないですよね。こういうのとは、また次元が違う話なんでしょうか。
現在では、各国当局は自国通貨の「保護」という名目で行う操作の影響をさまざまな方策を講じて一時的に隠蔽することができるが、そうしたことももはやできなくなる。
第1章「具体的な提案」「貨幣発行自由化論 改訂版――競争通貨の理論と実行に関する分析 」
フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) (著), 村井 章子 (翻訳)
なるほど、国家が、もっとまっとうに通貨の管理をしたくなるようなインセンティブをつくる必要があって、それをやらないと、既存の金融当局は、ちゃんと仕事をしないじゃないか、って著者は言ってるんですね。
空想的な欧州統一通貨?
この本が出版された1976年は、現在の欧州統一通貨ユーロ(EUが1999年から導入)の前身となるヨーロッパ通貨単位ECU(エキュ)が発足する3年前なのですが、ハイエクは「欧州統一通貨」について懐疑的だったようです。
国境を越えた資金移動を全面的に自由化して西ヨーロッパの完全な経済統合を実現したい、という願いには強く共感する。しかしその手段として新たに統一通貨を創設し、それを何らかの超国家機関によって管理するという案が果たして望ましいのか、深い疑念を禁じ得ない
第1章「具体的な提案」「貨幣発行自由化論 改訂版――競争通貨の理論と実行に関する分析 」
フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) (著), 村井 章子 (翻訳)
ユーロ:ヨーロッパ連合(EU)が1999年1月から導入した単一通貨の呼称であり,またその計算単位。原参加国はベルギー,ドイツ,スペイン,フランス,アイルランド,イタリア,ルクセンブルク,オランダ,オーストリア,ポルトガル,フィンランドの11ヵ国。ギリシアは2001年1月から参加した。2002年1月よりユーロ紙幣・コインの流通が開始された。
“ユーロ”, 世界大百科事典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-09-28)
「たとえ望みうる最善の状況であっても、統一通貨が各国の既存通貨よりうまく運営されるとはとても思えない」とハイエクは言っているのですが、約20年の運用を経てユーロはどんな問題を抱えているのか、このあたりを調べるのも今後の宿題にします。
銀行業を自由化
銀行業の自由化のところは、ちょっと良く分かんなかったんですよね。ハイエクの主張は分かるんですが、個人的に、それで利用者の私たちは、本当に利便性がアップするんだろうか、ってところです。
国家の金融当局が権限を握っている限りにおいて、目の前の困難から一時的に逃れるための政策が政治的な必要上からたびたび実行されることになる。そうした政策は例外なく有害で、国家の長期的な利益に反する。
第1章「具体的な提案」「貨幣発行自由化論 改訂版――競争通貨の理論と実行に関する分析 」
フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) (著), 村井 章子 (翻訳)
日本とフィリピンの銀行を比較したとき、フィリピンの銀行の方が自由度が高いみたいなんですよね。(規制がない=ルールがない=ゆるい)せまいエリアに同じ銀行の支店が3つも4つもあるし、手数料はバラバラだし、ATM使用料も同じ銀行でも、支店が違ったら取られるし。こういうのを自由化する、っていうのだと、う~~~ん、日本みたいに規制されていた方が、私は使いやすいな、と思ってしまうんですよね。利己的で短期的な視点ですが。
政府の隠蔽行為を防ぐ
ハイエクは、政府から貨幣に関するすべての権限を取り上げろ、と主張しているわけじゃなくて、政府に独占させておくのは、もう止めよう、といっているだけなのでした。
この提案が採用された場合でも、政府が健全な経済運営のためにとるべきいかなる行動も妨げることはないし、むしろ長期的には重要な集団すべてに利益をもたらすものと考えている。
第1章「具体的な提案」「貨幣発行自由化論 改訂版――競争通貨の理論と実行に関する分析 」
フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) (著), 村井 章子 (翻訳)
確かに、政治家も経営者も、長く権力を独占していると腐敗しがちだし、問題点が改善されにくくなります。貨幣についても、タブー視せず、自由競争が行われるしくみを作れば、もっと良い社会になるんだから、とにかく議論して、可能性を探ってみようよ、というハイエクの意見は、もっともだと思います。