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「セメント樽の中の手紙」葉山嘉樹(1926)救いがなく物悲しい労働者を描いた短編

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読書感想
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1926年(大正15年/昭和元年)に発表された葉山嘉樹の短編小説を読みました。ミステリー小説のような要素をもつ、やり場のない物悲しい気持ちになる物語です。(「セメント樽の中の手紙」葉山嘉樹著 ←青空文庫で無料で読めます)

原作と翻訳の読み比べ

英語ではしっかりと主人公の名前がフルネームで出てきます。松戸与三は、6人の子どもと妻を養うために1日11時間セメント樽からコンクリミキサーにセメントを入れる作業をしています。舞台は恵那山と木曽川の近くにある建設途中の発電所。与三はそこで働いています。

「チェッ! やり切れねえなあ、嬶(かかあ)は又腹を膨(ふくら)かしやがったし、……」彼はウヨウヨしている子供のことや、又此寒さを目がけて産うまれる子供のことや、滅茶苦茶に産む嬶の事を考えると、全くがっかりしてしまった。
「一円九十銭の日当の中から、日に、五十銭の米を二升食われて、九十銭で着たり、住んだり、箆棒奴(べらぼうめ)! どうして飲めるんだい!」

「セメント樽の中の手紙」葉山嘉樹著

“Damn it all!” thought Matsudo Yoshizo. “It’s too much. Yes, it’s too damned much! The old woman’s pregnant again.”
He thought of the six children who already squirmed about their tenement room, and of the new child who was going to be born just as the cold season was coming on, and of his wife who seemed to give birth pell-mell to one baby after another; and he was sick at heart.
“Let’s see now,” he muttered. “They pay me one yen ninety sen a day, and out of that we have to buy two measures of rice at fifty sen each, and then we have to pay out another ninety sen for clothing and a place to live. Damn it all! How do they expect me to have enough left over for a drink?”

Letter found in a cement-barrel By Yoshiki Hayama TRANSLATED BY Ivan Morris (Modern Japanese Short Stories: An Anthology of 25 Short Stories by Japan’s Leading Writers)

葉山は自分もセメント会社で働いた経験があり、そこからこの物語の着想を得たのでしょう。現代の私たちには想像もできないほど貧しかった日本で、働いても貧困から抜け出せない人々の姿を描いた彼の作品は当時多くの共感をもって高く評価されたといいます。

1925年に発表された「淫売婦」も読みましたが、こちらもテーマは「セメント樽の中の手紙」と同じで貧しく救いようのない暮らしに貶められている人を描いています。

squirm [intransitive] to move around a lot making small twisting movements, because you are nervous, uncomfortable, etc.

“squirm (v.)”, Oxford Advanced Learner’s Dictionary, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2021-08-25)

“pell-mell”(副詞)(やや古)
1 乱雑[ごっちゃ]に.2 大あわてに,あたふたと,向こう見ずに.

“pell-mell”, プログレッシブ英和中辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2021-08-25)

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参考

葉山嘉樹 はやまよしき 1894-1945(明治27-昭和20)小説家。福岡県京都(みやこ)郡豊津村生れ。豊津中学を出て,早稲田大学予科文科に進んだが中退。1913年から数年間,外国航路の貨物船の水夫見習いや室蘭・横浜航路の石炭船の下級船員として働いたが,負傷して下船。帰郷し,鉄道や学校の事務員などをしながらロシア文学に傾倒。19年に名古屋に出て,セメント会社の工務係や新聞記者などをしながら労働運動に参加した。多くの労働争議にかかわり,入獄すると,獄中で自分の体験を作品に生かす小説の制作にはげんだ。そうして生まれた《淫売婦》(1925)や《セメント樽の中の手紙》(1926)を《文芸戦線》に発表し,長編《海に生くる人々》(1926)を出版して,大正から昭和への転換期のプロレタリア文学を代表する作家の地位を確立した。34年,長野の山村に移住,鉄道工事や農業に従事するかたわら短編集《今日様》などを残したが,43年開拓移民として満州に渡り,45年10月,引揚げ列車の中で病死した。

“葉山嘉樹”, 世界大百科事典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2021-08-25)

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