2021年2月のABD読書会に参加したので、感想とまとめを記録しておきます。課題本は、タレブの「反脆弱性」上巻です。参加者7名で各章を分担して読み、内容を共有してから意見交換をしました。
来月3月20日は下巻が課題本です。ご興味のある方はぜひ参加をご検討くださいませ。お申込みはこちらからどうぞ。
第1章 反脆弱性の逆は脆弱性
この章は、反脆弱性とは何かのとっかかりを学ぶところ。反脆弱性の逆は脆弱性になる。通常は頑丈、強いをイメージするが、それだと、おかしいとタレブはいう。「強いこと」は「壊れにくい」という意味にはならない。柔軟性に欠ける強さは、突然崩壊する危険性をはらんでいるから。反脆弱性は外から刺激を与えると逆に強くなる状態だと理解する。
第2章 反脆弱性の具体的な事例
この章は、反脆弱性の具体的な事例を学ぶ。(外からの刺激を与えるとよけいに強くなる)
- PTSD=過去に傷を負った人が強くなる
- 人体は刺激によって成長する(私たちの体にはそのようなシステムがある)
- 雑音があると仕事がはかどる
- 競馬で勝つ馬を育てる方法=強い馬と闘わせたほうが強くなる
- イノベーションは過剰反応から発生する
- 快適な中でイノベーションが生まれると考えがちだがそれは違う。(必要は発明の母)
- 抑えきれない愛情は抑圧の現象といわれる
第3章 現代性は人間の反脆弱性を奪っている
この章は生物と機械を比較して、反脆さの概念を学ぶ。
- 生命はすべて反脆さのカテゴリに入る
- 弱いストレスが長くあるNG、強いストレスが瞬間的になるのはOK
- 子どもに精神薬を飲ませるのはNG
- 観光客化の現代病:ストレスを小さくするために不確実性を排除するのはNG
- 現代性は人間の反脆弱性を奪っている
- ストレスを減らすことは必ずしも良い結果を生まない
第4章 ピンポイントではなく全体をみる
この章は、失敗が進化を生むという事実を認識するところ。自然のシステムは反脆弱性の象徴である。自然は残酷だけれども、全体のシステムは反脆弱性が高い。
- 経済=ひとりの起業家の失敗が全体の利益になるしくみがある
- 飛行機=1回事故が発生することにより、劇的に改善された
- 残酷さから、全体の向上と進化につながる
- 起業家記念日を作り報われなかった個人の起業家を称えよう(タレブ流のジョーク)
第5章 大きな変動に対応できる=安定
この章は「ブラックスワン」(Increto book2)の復習。「月並みの国」と「果ての国」の概念に含まれるものはなにかを具体的な事例で確認する。
- 大手銀行員のジョンは失業したら次がない=安定していない
- タクシー運転手ジョージは、仕事をやめてもやっていける=安定している
- スイスは小さな政府の集まりなので安定している(ちいさな組み合わせのほうが安定)
- 大きな国は大きな変動に対処できないが小さな政府は変化に対応できる
- 人間のカロリー摂取は月並みの国のカテゴリ(大きな変動がない)
- 金融や経済は果ての国のカテゴリ(大きな変動がない)
- (状況を象徴する事例とキーワード)七面鳥:愛情をもって育てられるが最後は殺される
第6章 意図的にランダム性を排除しすぎるな
この章では、ランダム性を少量だけ取り入れる事の重要さを学ぶ。
- ゆれても沈没しないことが重要
- 少し困難があったほうがシステムは安定する
- 小さな山火事が定期的に発生したほうがよい
- 腹ペコのロバの事例(選択肢、ランダムノイズ)
- ランダム性を加えることで安定する事例:焼きなまし、ノイズ、カオス、
- 政治にもランダム性を入れた方がよいのでは?(アメリカの二大政党制)
- ランダム性を考えると政治不安、政争はときどきあっても良いのでは?
- 現代の問題=意図的にランダム性を排除しすぎ
第7章 分かった気になって余計なことをしすぎるな
この章では過干渉によって引き起こされる弊害についての警告。
- 体に必要と思われていた治療法が実はよくなかった事例。
- エンジニアリング志向だと全てに手を加えたくなる
- 動物には機械と違って自然治癒能力が備わっている
- 対策:みきわめろ,体系的な手引きをつくれ,過剰な情報収集は有害
- 分かった気になって余計なことをしすぎるな。
ここは、私の担当だったのでココでもう少し詳しく書きました。
第8章 「少ないほど豊か」を肝に銘じる
この章は、予測することの弊害を理解するところ。
- 中立でない予測は医原病と同じ
- 三要素で思考する
- 四象限で思考する(第4象限はブラックスワンのいるところだから注意)
- 少ないほど豊か
ここは、私の担当だったのでココでもう少し詳しく書きました。
第9章 専門家の予測は眉唾
この章では、2008年の金融危機でデブのトニー、ネロがぼろもうけした理由をつかって、どのように脆さを見つけるのかを考える。結論は、専門家の予測を安易に信じるな、ということ。
第10章 もろさを脱するための考え方と方法
この章では、もろい状態(脆弱性)を脱するための考え方と方法を学ぶ。
- セネカ(古代ローマ ストア派の哲学者)トライアドの要素を結び付けて反脆さの問題を解決
- 人間はたくさん手に入れることより、たくさん失うことの方に心理的な負担が大きいと感じる
- ダウンサイドとアップサイドのバランスをとる必要がある
- 現代人は、そのままではたくさん得すぎる状態になってしまいバランスを欠く
- 自分は何も持っていないと考える境地にいけると脆弱性を緩和できる
第11章 バーベル型の解決策
この章では、反脆さがダウンサイドを減らすという事例を学ぶ。
- 壊れた小包は、もう戻らない。重要なのは壊れた結果ではなく、その経緯
- 経緯を固定することへの弊害=生き残りへの視点が欠ける
- システムがもろければ改善や効率化といった努力が無意味になってしまう
- バーベル型の解決策。バーベル戦略。両端に極端なものがあって中央に何もない状態
- 反脆さ=冒険心と何もないものの組み合わせ
- 極端なダウンサイドを減らせばアップサイドを増やせる
- 子孫を残すために雌は会計士タイプを求めるが時々ロックスタータイプと浮気して遺伝子を残すためのバーベル戦略をとっている(タレブ流のジョーク)
第12章 オプション性はバラつきが多いほど利益がある
この章では、私たちの反脆弱性を強くしてくれるオプションについて学ぶ。
- タレス(古代ギリシャの哲学者)は無一文でも本人は幸福。口先だけの哲学者だと言われていたが、オリーブの搾取器で利益を得て周囲を見返した。
- 非対称性に気づいて、行動して反脆弱性を身につけたタレスは史上初のオプション取引の例
- オプション性はバラつきが多いほど利益を得られる(平均ではなくてバラつき)
- オプション性を持ったものを見極める能力をもつ
- オプション性をもったものを得ていじくりまわして反脆弱性を強化
第13章 試行錯誤しつつ確率をあげる
この章では、技術と進歩の事例から反脆弱性を学ぶ。
- 例:車輪付きのスーツケース
- 人は想像力が足りなくて発明に至るまでに時間が必要。実用化には飛躍(反脆さ)が必要
- どのように技術が進歩するのか?(理論があって研究して発明するわけではない)
- あるとき突然誰かが気付いて実用化にいたる
- 試行錯誤しつつランダムにならないように。確率をあげることの重要性 事例:沈没船探し
- 大学教授は理論を突き詰めると発明ができると考えがち
- 科学、医療、数学について、思考の順番を間違えないように
第14章 イノベーションはリスクテイクから
この章は、後付け理論に惑わされがちな私たちに対する忠告。
- アブダビ:教育にお金をかけている(教育にお金を使ったから豊かになったのではなくその逆)
- 個人レベルで教育は重要だけど、国家レベルではパッケージばかりに気を取られて施策を考えているから変なことになっている
- 晩餐会交流の良し悪し:良いエンジニア、職人はあまり話が上手じゃない。実際に仕事はできる
- グリーン材の誤謬:イノベーションはリスクテイクをしている人たちから生まれる
- 後付け理論に惑わされるな
第15章 アイデアではなく人に投資を
この章は、学問は手柄を横取りするものだ、という事例。
- 鳥に飛び方を教える、デリバティブの数式、実務家は論文をかかない etc.
- 数学のあきらかな副作用=予測によって過剰な脆さを生みだす
- 料理とコンピューター科学も同じ(レシピは試行錯誤で成長、コンピュータ科学の発展も同じ)
- 産業革命はアマチュアが起こした
- 学者の信憑性を確かめるためには、反論者の意見を確認してみる
- 政府は非目的論に投資すべき(目的論的なものではなく)
- 医学はセレンディピティで生まれたものが多い
- 薬は別の研究の副作用から偶然に別の病気に効くことが分かって実用化されることが多い
- デザイナー薬:副作用をすべて検証するのはムリ
- アイデアではなく人に投資する
第16章 みずから学べ。本を読め
この章はタレブの自伝的な告白。彼がどのように反脆弱性を培ったか、という内容。
- 学校教育の弊害:試行錯誤,反脆弱性を排除
- みずから学べ:タレブADHDだったのを逆手にとった。やりたいことを追求した
- 読書家タレブ:授業にもでないで多読 学校の与えた教材,仕組みを疑った
- 可能な限り中心から離れたところにある。
- as far away from the center が宝物をみつける。
- 13歳からの読書の積み重ねが宝物にいきついた。
ここは、私の担当だったのでココでもう少し詳しく書きました。
感想
自分の担当した章(7、8、16章)しか読んでいないのですが、参加したおかげで、全体の流れが把握できました。プレゼンが終わった後のディスカッションでは、10章の気になった部分を、もう少し詳しく聞くことができたことが特に有益でした。
ちょうど現在、CourseraでBuddhism and Modern Psychologyを学習していて、仏陀が言うthe self does not exist(自己は存在しない)を説明するレポートを書かなきゃいけないのですが、第10章の内容が参考になりそう。
不可逆性がないものが、反脆弱性があることの証拠になる、という例えもディスカッションで学ぶことができて、勉強になりました。
例えば、なま卵をゆで卵にしたら、取り返しがつかない。ゆで卵はなま卵に戻らないから。なま卵にとって、ゆで卵は反脆弱性がない、と考えられる。じゃ、生卵に反脆弱性があるものって、何なの?って考えると、黄身と白身を分離した生卵なら、ゆで卵よりはマシとか?そういうこと?
などと、少し身近なことに引き付けて自分の考えを整理してました。
参考
セネカ(Lucius Annaeus Seneca)ローマ帝政初期のストア派哲学者,劇作家,政治家。スペインのコルドバに生まれ,すでに幼年時に弁論家の父,いわゆる老セネカと母ヘルウィアとともにローマに移り,修辞学,哲学を学んだ。とくにアッタロス,パピリウス,ソティオンらストア派哲学者の影響を受けた。その後財務官として政界入りを果たしたが,卓抜した弁論はカリグラ帝の嫉妬を買うところとなり,41年陰謀によってコルシカ島に追放された。48年小アグリッピナから召喚されて息子ネロの教育をゆだねられ,54年クラウディウス帝の死後は帝政の実権を握り,行政に腕をふるった。その間巨額の富を築き,哲学的信条と実生活の矛盾が非難を浴びた。〈彼は清貧以外はすべてを手に入れた〉と歴史家タキトゥスも自家撞着(どうちやく)に陥ったセネカの姿を皮肉な筆致で描いている。しかし62年,同僚ブルスの死を契機に公職を離れローマ近郊の別荘で著述活動に専念するが,65年ピソの陰謀に加わったかどでネロに自殺を命じられた。
“セネカ(Lucius Annaeus Seneca)”, 世界大百科事典, JapanKnowledge, (参照 2021-02-20)
タレス【Thalēs】[前624ころ~前546ころ]古代ギリシャの哲学者。哲学の祖とされる。ギリシャ七賢人の一人。ミレトス学派の創始者で、万物の根源は水と考えた。日食の予言やピラミッドの高さの測定なども行った。タレース。
“タレス【Thalēs】”, デジタル大辞泉, JapanKnowledge, (参照 2021-02-20)
一般に条件の変化の向きを逆にしたとき、現象の変化がそのままもとにもどらない性質。たとえば、熱は高温から低温の方向に流れ、その逆の現象は外から新しくエネルギーを与えない限り起こらない。
“ふかぎゃく‐せい【不可逆性】”, 日本国語大辞典, JapanKnowledge, (参照 2021-02-21)
ある状態に変化した事物が、再び元の状態に戻ることができないこと。取り返しがつかないこと。
“ふかぎゃく【不可逆】”, 日本国語大辞典, JapanKnowledge, (参照 2021-02-21)
関連情報 Incretoシリーズ
- まぐれ (Fooled by Randomness) 2001 邦訳kindleなし
- ブラックスワン (The Black Swan) 2007-2010 邦訳kindleなし
- The Bed of Procrustes 2010 邦訳kindleなし
- 反脆弱性 (Antifragile) 2012 邦訳kindleあり
- 身銭を切れ(Skin In the Game)2018 邦訳kindleあり
「反脆弱性[上]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方」ナシーム・ニコラス・タレブ (著), 望月 衛 (翻訳), 千葉 敏生 (翻訳)
「反脆弱性 [下] ――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方」ナシーム・ニコラス・タレブ (著), 望月 衛 (翻訳), 千葉 敏生 (翻訳)