読書感想8. Trial&Error

2月ABD読書会「反脆弱性」第8章 予測できないことを知れ

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読書感想
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2021年2月と3月のABD読書会の課題本は、タレブの「反脆弱性」です。2月は上巻、3月は下巻に取り組むことになりました。

今月2月の私の担当パートは、「第7章 浅はかな干渉 ── 医原病」「第8章 予測は現代性の生みの子 ── ブラック・スワンの世界へ」「第16章 無秩序の教訓」の3つ。とりあえず、担当パートについては、自分のブログに備忘記録を残していきます。

今回は、「第8章 予測は現代性の生みの子 ── ブラック・スワンの世界へ」について、面白かったところをメモしておきます。

英語版を読んでいるため、引用文の和訳はGoogle翻訳を利用しています

第8章 Prediction as a Child of Modernity

この章は、予測するという行為が持つリスクを説明しています。多くの人々は子どものように無邪気に、権威がある人の予測を鵜呑みにしがちですが、その判断に対してタレブは警鐘を鳴らしています。現代において「予測する」ことは重要視されていますが、それが必ずしも有効ではない理由を私たちは理解しておく必要があるよ、というのが著者の主張です。

タレブの著作を読むと、この方が皮肉っぽくて怒りっぽく、わりと攻撃的な性格だと気づかされるのですが、この章でも彼は自分が怒りを爆発させた状況を描いています。

それは2009年に当時IMFの副総裁だった加藤隆俊氏(Deputy Managing Director, IMF(from February 2004–February 2010))が2010~2014年の経済予測プレゼンを韓国で行った時のことでした。

Listening to Kato’s presentation, I could not control myself and flew into a rage in front of two thousand Koreans—I was so angry that I almost started shouting in French, forgetting that I was in Korea. 加藤さんのプレゼンテーションを聞いていると、自分をコントロールできず、2000人の韓国人の前で怒り狂った。韓国にいることを忘れて、フランス語で叫び始めそうになった。

Antifragile: Things That Gain from Disorder (Incerto Book 3) (English Edition) Kindle版 Nassim Nicholas Taleb (著)

タレブは、権威のある人が安易な予測を口にすることで、一般の人たちが甚大な被害を被る可能性を常に懸念しています。それは個々人だけでなく、社会全体に損害を与えるからです。

そんなふうに怒りを爆発させるのは、君らしくないとカーネマンにたしなめられたけど、こんなひどい状況を見逃すなんてありえない、みたいなエピソードも、いかにもタレブらしいって感じ。

What was getting me in that state of anger was my realization that forecasting was not neutral. その怒りの状態に私を導いたのは、予測が中立ではないという私の認識でした。It is all in the iatrogenics. それはすべて医原病にあります。Forecasting can be downright injurious to risk-takers—no different from giving people snake oil medicine in place of cancer treatment, or bleeding, as in the story of George Washington. 予測はリスクテイカーにとってまったく有害である可能性があります。ジョージ・ワシントンが癌や出血の治療代わりに蛇油の薬を与えられたのと同じです。

Antifragile: Things That Gain from Disorder (Incerto Book 3) (English Edition) Kindle版 Nassim Nicholas Taleb (著)

Fragility-Robustness-Antifragility

そして、この体験からタレブは、予測するという手法の代わりにFragility-Robustness-Antifragility(脆弱性-堅牢性-反脆弱性)という三要素で思考する方法を広く一般に提案しようと思いつきます。

What makes life simple is that the robust and antifragile don’t have to have as accurate a comprehension of the world as the fragile—and they do not need forecasting.
人生をシンプルにするのは、頑強で壊れにくいものは、壊れやすいものほど正確に世界を理解する必要がなく、予測する必要がないということです。

Antifragile: Things That Gain from Disorder (Incerto Book 3) (English Edition) Kindle版 Nassim Nicholas Taleb (著)

ここでは、脆弱性をどのように補完するのかという、具体的な事例として、東日本大震災によって発生した福島第一原発事故と、スウェーデン政府が上がっていました。予測不可能な事故や事件を、予測しようとしてムダなお金や時間を投資せず、論理的な思考で、現実的な対応策を行うことが、ダメージを少なくし、最悪の事態を避けることにつながります。

ブラックスワンの復習

この章は、第7章ほど長くないのですが、後半にはタレブの著書「ブラックスワン」で用いられた概念が登場するため、そちらを読んでいない人にはチンプンカンプンになるでしょう。

ブラックスワンというのは、「従来の考え方では予測できない事象」を意味する言葉です。そしてブラックスワンが発生するようなカテゴリに入ってしまうものを予測しようとするのは、ムダだからお止めなさい、というのが著者の一貫した主張です。

  So my work is about where one should be skeptical, and where one should not be so.
ですから、私の仕事は、どこに懐疑的であるべきか、どこに懐疑的であってはならないかということです。

Antifragile: Things That Gain from Disorder (Incerto Book 3) (English Edition) Kindle版 Nassim Nicholas Taleb (著)

タレブが作った4つの分類についても理解しておく必要があります。第1~3象限は、知識などの欠如によってエラーは起こりますが、取り返しがつかないほど重大な問題は発生しない、という分類です。第4象限は、タレブが手を出しちゃダメだよ、と忠告しているブラックスワンの発生するカテゴリです。

拡張性が低い第2象限:月並みの国
規則性が高い、極端な事件が発生する
第1象限:月並みの国
規則性が高い、極端な事件は発生しない
拡張性が高い第3象限果ての国
極端なランダム性、極端な事件の発生は少ない
第4象限:果ての国
極端なランダム性、極端な事件の発生
★予測は不可能★
What are the Quadrants? :象限とは何ですか?

堅牢化(Robustification)する、というのは、事態を第4象限から第3象限に切り替えることを意味します。予測不可能な極端なイベントが発生しないようにすることを意味するようです。

結論はless is more

現代は、Winner-take-all(勝者が全てをひとり占め)が幅をきかせる社会に歯止めが効かない状況にあり、さまざまな分野で第4象限に該当する事態が増えているのだけれど、新たな情報が次々と生み出され、それによって、さらに私たちの理解する能力が低下させられています。

結局のところ、自分を過信せず、物事を見極める眼を育て、余計なものは排除する努力が必要みたい。

  Yet, again, the answer is simple: less is more; move the discourse to (anti)fragility.
しかし、繰り返しになりますが、答えは単純です。少ないほど豊かなのです。話を(反)脆弱性に戻しましょう。

Antifragile: Things That Gain from Disorder (Incerto Book 3) (English Edition) Kindle版 Nassim Nicholas Taleb (著)

参考

ブラックスワン:金融市場における事前予測が不可能な壊滅的被害をもたらす事象のこと。従来、全ての白鳥は白色と思われていたが、1697年にオーストラリアで黒い白鳥(ブラックスワン)が発見された。そのことから、従来の考え方や経験からは予測できない事象のことをブラックスワンと呼ぶようになった。

“ブラックスワン[世界経済]”, 情報・知識 imidas 2018, JapanKnowledge, (参照 2021-02-18)

カーネマン【Daniel Kahneman】[1934~ ]米国とイスラエルの二重国籍をもつ心理学者・経済学者。経済学者のエイモス=トゥベルスキーとともに、経済学に心理学の手法を導入し、人間の非合理的な意思決定を理論化したプロスペクト理論を提唱、行動経済学を確立した。2002年、ノーベル経済学賞を受賞。

“カーネマン【Daniel Kahneman】”, デジタル大辞泉, JapanKnowledge, (参照 2021-02-18)

タレブは拡張性のある世界を「果ての国」(Extremistan)、拡張性のない世界を「月並みの国」(Mediocristan)と名付けて、さまざまな現象を分析し、読者に説明します。こちらのブログの内容で、果ての国のイメージが分かりやすくつかめます。参考:果ての国と月並みの国(橘玲公式ブログ)

関連情報

  1. まぐれ (Fooled by Randomness) 2001 邦訳kindleなし
  2. ブラックスワン (The Black Swan) 2007-2010 邦訳kindleなし
  3. The Bed of Procrustes 2010 邦訳kindleなし
  4. 反脆弱性 (Antifragile) 2012 邦訳kindleあり
  5. 身銭を切れ(Skin In the Game)2018 邦訳kindleあり

タレブのホームページ

Amazon.co.jp: 反脆弱性[上]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方 eBook : ナシーム・ニコラス・タレブ, 望月 衛, 千葉 敏生: Kindleストア
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