読書感想Trial&Error

「反脆弱性」第16章 無秩序の教訓 ルールから離れて遊べるか

当記事には広告が含まれている場合があります
当記事には広告が含まれている場合があります
読書感想
この記事は約9分で読めます。

2021年2月と3月のABD読書会の課題本は、タレブの「反脆弱性」です。2月は上巻、3月は下巻に取り組むことになりました。今回は「第16章 無秩序の教訓」について、学習メモを残します。タレブがどんな本を読んできたのか、などの生い立ちと彼の思想の根本にあるものが分かる内容です。

(今月2月の私の担当パートは、「第7章 浅はかな干渉 ── 医原病」「第8章 予測は現代性の生みの子 ── ブラック・スワンの世界へ」「第16章 無秩序の教訓」の3つ。担当パートについて、ここに備忘記録を残しています)

英語版を読んでいるため、引用文の和訳はGoogle翻訳を利用しています

第16章 A lesson in disorder

この章は、学校教育の持つ弊害について、著者タレブが自らの経験を基に語っている内容です。結論としては、学校が行うようなエリート教育では、脆弱性を克服することは困難ではないか、という提言と、激烈な読書の勧めのように私には受け取れました。

ゲームにはルールがあり、学校には規則があり、私たちは、その枠組みを知って、その中で評価を得る方法を学びます。

しかし現実社会で、私たちは、どのようなルールや枠組みがあるのか、事前に明らかになっていない状況で判断し、行動を迫られることが多いのに、そういった困難な情況に対応するための訓練は、学校教育では得られないじゃないか、とタレブは言うのです。

We accept the domain-specificity of games, the fact that they do not really train you for life, that there are severe losses in translation.
私たちは、ゲームのドメイン固有性、ゲームが実際にあなたを人生のために訓練していないという事実、翻訳に深刻な損失があるという事実を受け入れます。

Antifragile: Things That Gain from Disorder (Incerto Book 3) (English Edition) Kindle版 Nassim Nicholas Taleb (著)

子どもの発達を妨げる母親

子どもの発達を最も妨げるものは、子どもたち自身の試行錯誤の体験を奪う母親だという指摘もしています。現実では、予測不可能な世界に臨機応変に対応することが求められているのに、子どもたちは規則を学んで、その枠からはみ出さないようにすることばかりを学習させられているじゃないか、ナンセンスだろう、というわけです。

But the problem is more general; soccer moms try to eliminate the trial and error, the antifragility, from children’s lives, move them away from the ecological and transform them into nerds working on preexisting (soccer-mom-compatible) maps of reality.
子どもに習い事をさせることに夢中な中流階級の母親たちは子どもたちの生活から試行錯誤、抗脆弱性を排除し、子供たちを生態系から遠ざけ、既存の(母親たちにとってなじみがある)現実の地図に取り組んでいる退屈な人に変えようとします。

Antifragile: Things That Gain from Disorder (Incerto Book 3) (English Edition) Kindle版 Nassim Nicholas Taleb (著)

確かに、そういう面もあるでしょう。タレブは非常に優秀な遺伝子を持って生まれ、非常に恵まれた家庭に生まれた人だから、学校教育を越えたレベルの学習を独学で行うことが可能なんですよ。(父親は、全国一の成績で大学を卒業するレベルの官僚で、タレブは子どもの頃から好きなだけ本を買って読むことができたというエピソードが紹介されています)

残念ながら、大多数の人たちは、タレブのように十代半ばから独学で古典を週40~50時間も読み浸るだけの知力も財力もありません。それができるような才能を持った子どもを、そのように育てられるしくみが作れたらいいのでしょうけれど、出る杭を打つことをしくみ化している日本の教育では、相当な改革が求められるはず。

でも結局、日本だけじゃなく、どこの国でも教育制度の合理化と官僚化によって同じような問題を抱えていると言えそうですね。

自分で選んで学べ

ここでタレブは、自分が注意欠陥多動性障害(ADHD)であること、それを逆手にとって学習の効果をあげたことを告白しています。人と同じものを無理矢理に押し付けられて学ぶのではなく、自分にとって興味のあることを、追求するスタイルで、彼は自分にとって必要なもの、最適なものを発見することができたのです。

I figured out that whatever I selected myself I could read with more depth and more breadth—there was a match to my curiosity. And I could take advantage of what people later pathologized as Attention Deficit Hyperactive Disorder (ADHD) by using natural stimulation as a main driver to scholarship. 自分で選んだものは何でも、もっと深く、もっと広く読むことができると思いました。好奇心に合ったものがありました。そして私は、自然な刺激を勉学の主な推進力として使用することにより、後に人々が注意欠陥多動性障害(ADHD)として呼んだものを利用することができました。

Antifragile: Things That Gain from Disorder (Incerto Book 3) (English Edition) Kindle版 Nassim Nicholas Taleb (著)

超多読家タレブ

13歳から様々な本に触れることができたタレブは、図書館や学校の限られた資料は、人々が博識になれない設計になっていると皮肉を言います。

ちなみに彼がイスラエルで子どものころに読んだ本として挙げているのは、ドストエフスキー、トゥルゲネフ、チェホフ、ボスエット司教、スタンダール、ダンテ、プルースト、ボルヘス、カルヴィーノ、セリーヌ、シュルツ、ツヴァイク、ヘンリーミラー、マックスブロド、カフカ、イオネスコ、シュールレアリスト、フォークナー、マルロー、ヘーゲル、ショーペンハウアー、ニーチェ、マルクス、ジャスパー、フッセル、レヴィ・ストロース、ショーレム、ラシーヌ、コルネーユ、エミール・ゾラなど。

18歳でアメリカの大学に入学してからは、学校の授業に参加せず、英語の本を数百冊購入して週30~60時間は読書していたのだとか。。。

  My parents had an account with the largest bookstore in Beirut and I would pick up books in what seemed to me unlimited quantities… I started, around the age of thirteen, to keep a log of my reading hours, shooting for between thirty and sixty a week, a practice I’ve kept up for a long time.私の両親はベイルートで最大の書店の口座を持っていて、私は無制限の量の本を手に入れました。(中略)私は13歳の頃から、読書時間の記録を取り始め、週に30〜60回しました。これは、私が長い間続けてきた習慣です。

Antifragile: Things That Gain from Disorder (Incerto Book 3) (English Edition) Kindle版 Nassim Nicholas Taleb (著)

この膨大な読書体験の積み重ねから、やがて彼は「確率とランダム性」を研究することに没頭し、研究キャリアを開いていくことになるわけです。

outside the corpus

結論としては、体系化されたものに埋没したり、大勢が集まっている中に入り込んでいくのではなく、枠組みから離れる視点や行動によって、有益なものが得られる、とタレブは考えています。

  To this day I still have the instinct that the treasure, what one needs to know for a profession, is necessarily what lies outside the corpus, as far away from the center as possible. 今日まで、私は、職業のために知る必要のある宝物は、必然的にコーパスの外側、可能な限り中心から離れたところにあるものであるという本能を持っています。

Antifragile: Things That Gain from Disorder (Incerto Book 3) (English Edition) Kindle版 Nassim Nicholas Taleb (著)

参考

ADHD(注意欠如多動性障害):状況に応じた行動を制御できない(授業中教室の内外を歩き回るなど)、一つの課題に注意を集中・持続できない(忘れっぽく、締切に間に合わない、課題が中途半端になるなど)発達障害の一種。薬物療法が必要なケースもある。多動性・衝動性優位型、不注意優勢型、および混合型がある。従来は、注意欠陥多動性障害といわれたが、2013年アメリカ精神医学会が出版したDSM-5(精神疾患の分類と診断の手引き第5版)で、注意欠如多動性障害と名称が変更。神経発達障害群(Neurodevelopmental disorders)の一つにカテゴライズされた。

“ADHD(注意欠如多動性障害)[心理学]”, 情報・知識 imidas 2018, JapanKnowledge, (参照 2021-02-19)

関連情報

  1. まぐれ (Fooled by Randomness) 2001 邦訳kindleなし
  2. ブラックスワン (The Black Swan) 2007-2010 邦訳kindleなし
  3. The Bed of Procrustes 2010 邦訳kindleなし
  4. 反脆弱性 (Antifragile) 2012 邦訳kindleあり
  5. 身銭を切れ(Skin In the Game)2018 邦訳kindleあり

タレブのホームページ

反脆弱性[上]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方
「万にひとつ」が明日来る――。『まぐれ』『ブラック・スワン』のタレブが、経済、金融から、テクノロジー、人生、健康、そして愛まで、この不確実な世界で不確実性を飼いならし、したたかに生き延びるための唯一の考え方「反脆弱性」について語り尽くす。
反脆弱性[下]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方
「絶対ない」は絶対ない――。『まぐれ』『ブラック・スワン』のタレブが、経済、金融から、テクノロジー、人生、健康、そして愛まで、この不確実な世界で不確実性を飼いならし、したたかに生き延びるための唯一の考え方「反脆弱性」について語り尽くす。

タイトルとURLをコピーしました