読書感想8.1. ふとした気づき8. Trial&Error

「鬼畜の言葉」宮本百合子(1949)

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読書感想
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今から、ほんの71年前の1949年(昭和24年)5月に宮本百合子が「青年新聞」に書いていた文章を読み、なんでこうなっちゃったんだろうな、と考え込みました。(「鬼畜の言葉」宮本百合子著 ←青空文庫で無料で読めます)

人口増加に悩んでいた日本

昭和20年代といえば、二世代、三世代が同居する大家族が当たり前の時代でした。
三種の神器は白黒テレビ、電気冷蔵庫、電気洗濯機。新三種の神器は、カラーテレビ、クーラー、自動車です。ちなみに、1950年(昭和25年)には、住宅不足の解消を目指し、持ち家建設を支援するために住宅金融公庫が創設されています。

「切迫せる人口問題」のくだりで、鈴木文史朗氏はいっている。一年に百万ずつもふえている日本の人口問題の解決法がゆきづまっている。「理想的なやりかたは、ひと思いに何千万を殺すか、自殺かだ。」バロット氏「そんなことは出来ない。産児制限と国の工業化が解決の一助だろう」。(中略)読売新聞の時評(美濃口時次郎)はいち早くこの卓見に同調して、労働者に家族手当を出すので子供を産む。家族手当をやめよ、賃金を労働者一人の能率払いにせよ、と書いている。(五月九日)

「鬼畜の言葉」宮本百合子著

中央公論と読売新聞の記事を読んだ宮本百合子が自分の意見を述べて2人のジャーナリストを名指しで批判しています。鈴木の論理は鬼畜の言という感銘を与えた、と皮肉り、美濃口の主張は、鈴木の卓見に同調したものだ、と。

現代の私たちから見れば、宮本百合子は当然のことを言っているだけです。でも、時代が違うんです。女性の権利が確立されておらず、男尊女卑が当たり前の時代には、普通に発言することすら、並大抵じゃなかったでしょう。

そして「中央公論」と「読売新聞」が、こういう明らかに差別的で人権意識に欠けた文章を普通に掲載していたという事実に一番驚かされました。ただし、変なごまかしをせず、ストレートに表現している分だけ、現在に比べれば、まだ救いがあるのかもしれません。

加速する変化

もう、私たちは絶対にスマホとインターネットがない時代に戻れません。まだ100年も経っていないのに、私たちはテレビに飽き始めていて、人口増加ではなく急激な人口減少に悩むようになりました。

平和と平等、差別に関する価値観は、より洗練されて、広く一般に共有されるようになっています。この科学的な進歩は信じられないほど素晴らしいのです。

ところが人間は、それに見合った成長をしていないのではないでしょうか。

ジャーナリズムや政治の世界で、言葉の持つ力は歪められ、国民の判断は軽視され、ごまかし、はぐらかされるようになっている気がして怖いのです。次回、日本の首相になるかもしれない人は、1948年生まれの方なのですが、彼のこれまでの言動から、まるで鈴木文史朗のような感覚を持っているのではないかという気がして不安が増大しました。

だって、宮本が批難していたような状況(政治家とそれに追従するメディア)と現状があまりにも似通っていますよね。

正しく言葉を使って対話をしようとする誠実さを持たない人に対して、私たちは何をすべきなのか。宮本百合子の作品から、もっと学べる気がします。

言ったもん勝ちの「厚顔無恥話法」
 この「厚顔無恥話法」は、開き直りの自己正当化発言であることが明白だ。しかしその言葉だけが切り取って報じられれば、もっともらしく聞こえる効果をもつ。切り取って編集され報じられることを見込んだうえでの演出だ。多くの人は印象操作でだますことができる、そうたかをくくって駆使されるのが「厚顔無恥話法」である。(中略)こうして国会の場は愚弄され続けた。菅義偉官房長官が記者会見で「まったく問題ない」とのコメントを繰り返すこともそうだ。愚弄されているのは、野党議員や記者だけでなく、私たち国民自身だ。

“国会答弁のウソ【2019】[なんでみんなウソに甘いの?~フェイクがまかりとおる世の中を考える【2019】]”, 現代用語の基礎知識, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-09-09)

参考

みやもと-ゆりこ【宮本百合子】(1899-1951):大正-昭和時代の小説家。
明治32年2月13日生まれ。中条(ちゅうじょう)精一郎の長女。17歳で「貧しき人々の群」を発表。結婚,離婚をへて昭和2年ソ連に留学し,帰国後共産党にはいり,宮本顕治と再婚。弾圧下で執筆活動をつづけ,非転向をつらぬいた。戦後,新日本文学会の結成に参加。昭和26年1月21日死去。51歳。東京出身。日本女子大中退。本名はユリ。代表作に「伸子」「播州平野」「道標」。

“みやもと-ゆりこ【宮本百合子】”, 日本人名大辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-09-09)

すずき‐ぶんしろう【鈴木文史朗】:ジャーナリスト。本名文四郎。千葉県出身。東京外国語学校卒。東京朝日新聞に入社し、論説委員、海外特派員となった。第二次世界大戦後は「リーダーズ‐ダイジェスト」日本語版編集長、参議院議員となる。文史朗の筆名で「米欧変転記」「文史朗随筆」などを著す。明治二三~昭和二六年(一八九〇~一九五一)

“すずき‐ぶんしろう【鈴木文史朗】”, 日本国語大辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-09-09)
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