8.2. ふりかえり Retrospective8. Trial&Error6. 驚 Surprise7. 哀 Sad

映画「禁断の向こうへ イラン人の秘密」(2017)

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8.2. ふりかえり Retrospective
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「 Iran: everything forbidden, anything possible 」(邦題「 禁断の向こうへ イラン人の秘密 」)というイラン映画をアジアン・ドキュメンタリーズで見たので、感想を記録しておきます。

DIRECTER TITLEYEARGENRETIMESCORE(IMDb)
ジャックス・デュボア 禁断の向こうへ イラン人の秘密 ( Iran: Everything Forbidden, Anything Possible )2017Documentary0:52

意味のない理不尽なルールによって、恐怖のもとに生活を制限されると、人は活力や思考能力を失っていく。

前髪の長さは、眉毛まで。髪を縛るゴムは黒。スカートの長さはひざ下10センチ。髪の色は黒。先生への口ごたえ、遅刻は厳禁。アルバイト禁止。不純異性交遊禁止。ルールを破った場合の罰則は…

たしか中学か高校の生徒手帳に、こんなことが書いてあったような気がする。

2020年の中高生が、数十年前の私と同じようなことが書かれた生徒手帳を持っているかどうかは知らない。当時の私は、勉強はできなくても、大人を煩わせることのない、目立たなくて大人しい生徒であることが重要だった。だから、大人からダメと言われたことについて、なぜダメなのか、という理由を考えることもなかった。自分にできることが何もないのに、余計なことを考えると、頭がおかしくなるから、極力むずかしいことは考えないようにしていた。

ドキュメンタリー映画「禁断の向こうへ イラン人の秘密」を見ながら、ルールをつくり、罰則を科したところで、それが個々人の人格を高めたり、究極には、社会にとって有益に働かないものであれば、どんな存在意義があるというのだろう、と中高の生徒手帳に書かれた規則を思い出しながら、考えていた。

2017年に製作された、このドキュメンタリー映画では、日常生活に支障をきたすほど、さまざまな禁止事項があるイランで、人びとが暮らす様子を撮影したものである。

禁止されている内容としては、犬を飼っちゃだめ、タバコやお酒はダメ、女性は髪を見せるな、男女は一緒に出歩くな、音楽を聴くな、といったもの。(違反が見つかるとムチ打ち(!)などの処罰がある)いったい、このような法を制定して市民の行動を制約し、罰することに、どんな意味があるのだろう。イランという国も法は、いったい誰を幸せにするために作られているんだろう。

この映画に登場する一人の男性は、飲酒運転で捕まり、むち打ちの刑にあったといい、傷ついた自分の背中を撮影した画像を彼のスマホで見せていたが、それに懲りている様子はなく、次はもっと見つからないようにうまくやるさ、という態度だった。禁止されている音楽も、自分の車の中だけなら、聴けるという。

ジョージ・オーウェルの「動物農場」で、豚のナポレオンは、人間から動物を解放するという目的で、ほかの動物たちのリーダーになり、やがて自分の権力に溺れ、どんどん自分の都合のよくルールを変更していき、ほかの動物たちの労働力を搾取して、自分だけ肥大化していく。馬や鳥、ロバなどは、なんだかおかしいぞと思いつつ、状況を容認し続けるために、事態は悪化の一途をたどる。

この映画を見ていて、イランという国の体制に疑問と不審を感じると同時に、動物農場の内容も思い出していた。
そして私はただ途方に暮れてしまう。

なぜなら、私は若いころから事なかれ主義だし、それがよくないと分かっていても、今後も変わらない。おそらく、自国の政治的な指導者が暴走を始めたとしても、ただ黙って見守ってしまう可能性が高い。だから、イラクの市民を責められない。でも、だからといって、むち打ちや、下手をしたら死刑になるかもしれない罪をおかして、タバコをすったり、酒を飲んだりして、一時の快楽におぼれたり、政権を批判する落書きをしたりする人たちに、共感することもできない。

貧富の差を作りだして、それを維持することに加担するのは、政治家や富裕層など、権力を持つ人たちで、特に軍事独裁政権だったり、政教分離ができていなかったりすると、その格差を平和的に解消する方法は、内部からでは、ほぼ不可能なんじゃないだろうか。
日本だって、第二次世界大戦で戦争に負けたから、現在のような民主主義国家になれたのだ。イランの状態は、まるで戦時中の日本みたい。市民同士がお互いに監視をして、意味不明な制約のもとに自由を奪われて、常に恐怖に怯える生活なんて。

あまりにも自分がイラクという国に対して知識がないので、驚くこと、考えさせられることの多い映画だった。ほかの2本(「ミーナーについてのお話」「裁判官 4000人を死刑にした男」)も、見ようと決めた。

疑問

  • こっそりと撮影した、と言っている割には、アングルがきれいだったりするのが、かえって不自然な気がした
  • 顔のモザイクが薄かったり、場所が特定されそうな画像があったけど、取材された人たちの安全性が気になる
  • なぜ富裕層の人たちは罰則を受けずに済むのか、イマイチ良く分からなかった

高評価

  • イランについて知識がない人でも理解しやすい
  • 1時間以内(52分)で見られるのは助かる(重いテーマで長時間だと疲れるので)
  • 暴力的な場面が少なくて良かった(怖いんで)
  • イランの富裕層の若者たちのリアルな実態を知ることができた
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