今回は、ハイエクの「貨幣発行自由化論」の第12章「どんな通貨が選ばれるのか」から、気になったところのメモと学習ノートを残しておきます。
「貨幣発行自由化論 改訂版――競争通貨の理論と実行に関する分析 」フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) (著), 村井 章子 (翻訳)
この章では、もしも複数の通貨が発行されることになったら、みんなはどんなものを選ぶだろう?という点について、ハイエクが予測しています。結論は、お金だからって特別な選択基準を持ったりするわけじゃなくて、長期的な視点で考えたら、品物を買うのと変らないんでしょ?ってことみたい。
四つの用途
どんな条件で貨幣を選ぶかについて考える場合に、どんな用途で使われるのかという点から考えていきます。
貨幣には、四つの用途があるけど、それを別々に考えるとおかしな具合になっちゃうから、それぞれの機能が依存しあっている関係だという点を念頭に置いて仮説を立ますよ、とのこと。
①現金で買い物をする(利便性) ②将来の必要に備える(安定性) ③繰延払い契約に使う(予想される変動制) ④計算単位として使う(安定性)
電子式のキャッシュレジ
①では、近い将来に電子式のキャッシュレジが開発され、どんな通貨建てでも瞬時に価格が表示される、というハイエクの未来予想が語られているのが面白いです。たった50年ほどで、ハイエクの予測が実現されるどころか、レジすらないAmazon Goのようなお店も現れているんですから。現在の私たちは、クレジットカードや、電子マネーでキャッシュレスで日常的に買い物ができる便利な状態になっています。
海外でも、日本で発行されたクレジットカードを使用して、キャッシュレスでお買い物ができますから、複数の貨幣が流通することになっても、そういう人たちは(私も含めて)あんまり困らないし、混乱もしないんじゃないかなぁ。
ハイエクもオーストリアのドイツ国境近くで暮らして二か国の通貨を使っていた経験を共有してくれていましたが、複数の国を行き来する生活を送っている人たちも、スムーズに移行できそう。
とはいえ、こうして貨幣に直接的に触れる機会が減るほど、その根本的なしくみについて深く考える機会も減ってしまう気はします。
成功者が選ぶ通貨
将来のために、蓄える貨幣は、ローンなど債務の返済に使うものに需要が集中しそうだ、とハイエクは予測しています。
繰り延べ払い契約の通貨基準って、なんのことか分かりづらいんですけど、これはお金の貸し借りの話です。貸し手(債権者:資本家、給与所得者など)と借り手(債務者:銀行、企業、農家など)で、どんなタイプの貨幣を好むか、真逆になるだろうけど、市場の増減で自動的にバランスがとれ、需要バランスに問題は生じない、とハイエクは言いますが、ちょっと楽観的かな?
計算単位として使われる貨幣は、会計業務に使われるから、とにかく安定第一なものが選ばれるだろう、とのこと。そして結論は、メンガーの言葉(人々が自己の経済的利益を知るのに最善の方法は、適切な手段を使って成功を収めている人を観察することだ)を踏襲するような言葉で締めくくられています。
人々が模倣したがるような成功者の選んだ通貨が勝ち残るにちがいない。
第12章「どんな通貨が選ばれるのか」「貨幣発行自由化論 改訂版――競争通貨の理論と実行に関する分析 」
フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) (著), 村井 章子 (翻訳)
FacebookやMicrosoft、GoogleやAppleが貨幣を発行し始めたら、もっと面白い未来が見られるだろうになぁ。
次の第13章では、引き続き、みんなが最終的に選ぶであろう通貨の特徴について、ハイエクが予測しています。結論は、原料価格を基準に価値を安定させる通貨が選ばれるよ、ってことみたい。色んな問題を防ぐためにも貨幣価値の安定は一番大事なんですが、それについては第17章(全面的なインフレ、デフレはもはや生じないか)で。
用語
Carl Menger(カール・メンガー)1840-1921
“メンガー(Carl Menger)”, 世界大百科事典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-10-26)
オーストリアの経済理論家。オーストリア学派の限界分析の創始者。いわゆるミクロ経済学を現在の体系にまとめ上げたのは,メンガーとその弟子たちであるといえる。ケンブリッジ学派の創始者A.マーシャルにも理論面で大きな影響を与えた。
オーストリア学派:経済学における限界革命において,L.ワルラス,W.ジェボンズとともにその三大巨星であったウィーン大学のC.メンガー,およびその流れをくむ経済学者たちの学派。ウィーン学派とも呼ぶ。限界革命の中心的概念は限界効用であるが,ワルラスにとってはそれが一般均衡理論の一つの道具にすぎなかったのに対して,オーストリア学派にとっては限界効用の意義ははるかに大きい(限界効用理論)。古典派経済学の労働価値説,生産費説が価格を費用により説明するのに対して,オーストリア学派の効用価値説は効用により消費財の価格を説明する。そして費用とは失われた効用であると考える機会費用の概念が説かれ,生産要素の価値はそれから生産される消費財の効用にもとづく価値が帰属するものであると考えられた。
“オーストリア学派”, 世界大百科事典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-10-26)
micro-economics(ミクロ経済学)微視的経済分析ともいう。現代の経済理論は大別してミクロ経済学とマクロ経済学とに分かれる。後者が,国民所得などの集計量,物価指数などの平均値のあいだの関係を分析するのに対して,ミクロ経済学はまず,(1)消費者の家計,企業などの個々の経済主体の行動を分析し,(2)これら経済主体間の市場を通じての相互依存関係を重視しながら,経済全体の動きを解明する。経済主体間の市場を通じての相互依存関係とは,生産物,生産要素の交換の関係であるから,それを分析するには交換の比率である価格の体系を分析しなければならない。したがって,ミクロ経済学はまた価格理論とも呼ばれるのである。
“ミクロ経済学”, 世界大百科事典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-10-26)
貨幣発行自由化論 改訂版ーー競争通貨の理論と実行に関する分析 [ フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) ]