読書感想8. Trial&Error

「貨幣発行自由化論」第10章 流動性の高い資産

当記事には広告が含まれている場合があります
当記事には広告が含まれている場合があります
読書感想
この記事は約4分で読めます。

今回は、ハイエクの「貨幣発行自由化論」の第10章「閑話休題 貨幣の定義について」から、気になったところのメモと学習ノートを残しておきます。

「貨幣発行自由化論  改訂版――競争通貨の理論と実行に関する分析 」フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) (著), 村井 章子 (翻訳)

(10月の読書会までに、読み終えて感想を共有する予定で準備をしています)

この章では、ハイエクがこの本で使用している用語の意味と、単純化が経済学にもたらした誤りなどが論じられています。この内容は、もっと最初のほうにあったら良かったな。

国境の街での体験

ハイエクは、異なる貨幣が一つの地域で流通し問題がなかったという経験を語り、かつて自分が住んでいたオーストリア国境の街では、オーストリアとドイツの通貨が流通していたし、アメリカとカナダ、アメリカとメキシコの国境近くでも同じ状態があるのではないか、と言います。

実際にそのような状況で回っているところがあるわけだから、貨幣は絶対に一種類!と決めつけなくても大丈夫、というわけ。

貨幣の概念

現代人は、貨幣は国家が管理するものと思い込んでいるけれど、それは中世以降の考え方で、もともと貨幣は、金や銀など、ひろい範囲で通用する交換可能は価値あるものだったんですよね。

中世以来の考え方=貨幣または貨幣価値は国家が生み出すもの
古代中国人の考え方=貨幣の概念とは流通する商品だった
貨幣の概念=最も流動性(通用する度合い)の高い資産
貨幣の定義=広く受け入れられる交換手段

だから、モノが貨幣になるためは、以下のような機能も求められるわけです。

・価値の尺度になる
・価値の貯蔵手段になる
・繰り延べ払いの基準単位になる

ハイエクの用語解説

この本でハイエクが使用している用語は、一般の解釈とは少し異なる場合もあるから理解しておいてね、と前置きして説明しています。

  • ・貨幣(money)よりも通貨(currency)の使用が適切=複数形にしやすい。流通性の高さを重視 ・通貨に含めて考えるもの(現金、当座預金残高、小切手)=貨幣とそうじゃないものを厳密に区別する必要はなく、読者は貨幣として通用する度合いが違うモノをイメージしてOK
    ・銀行(通貨を発行しても、しなくても銀行とよぶ)
    ・交換比率(通貨同士を交換する比率)
    ・通貨取引所(通貨取引のために組織された市場)
    ・通貨代用物(トラベラーズチェック、クレジットカード、当座借越)

日本語だと、貨幣も通貨も、「おかね」になっちゃうし、もともと英語のように単語に複数形がないので、直感的に理解しにくい部分はありますよね。ポイントになる考え方は、これは貨幣で、「これは貨幣じゃない!」と厳密に区分する意味はないし、弊害が大きいから注意して、という部分でしょう。

ハイエクとタレブ

私が特に面白いと思ったのは、注記で書かれていたこの部分なんですけど、タレブが「身銭を切れ」で皮肉っていた「科学と科学主義の違い」と同じだったので、ちょっと笑っちゃいました。

このような分類をすることは、統計学者にはとくに心地よい習慣らしい。彼らの技術の応用は、分類の活用に依存することが多いからだ。経済学においては、統計的に検証可能な理論のみを受け入れる傾向が一般的だ。その結果、貨幣数量説など真理に近いものがいくつか得られたことは事実だがそうした学説は過大評価されてきたと言わざるを得ない。本書で論じる問題に関しては、数式化された経済理論の大半は訳に立たない。議論の対象を数学的に処理するために現実の世界に存在しない明確な区分を設けることは、経済学をより科学的にするどころか、むしろ非科学的にしているのである

第10章「閑話休題 貨幣の定義について」「貨幣発行自由化論  改訂版――競争通貨の理論と実行に関する分析 」
フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) (著), 村井 章子 (翻訳)

ハイエクも、タレブも、現実の世界に存在するものをまず認識すること、そして物事を複雑化しようとすることは、問題が生じる可能性が高いと読者に呼びかけています。

科学主義とは、科学をプロセスや懐疑的な活動ではなく、何かを複雑化することとしてとらえる軽薄な考え方である。むやみやたらに数学を使うのは科学ではなく科学主義だ。まともに動いている手を、もっと技術的なもの、たとえば人工義手に置き換えるほうが、より科学的だとはいえない。

身銭を切れ――「リスクを生きる」人だけが知っている人生の本質
ナシーム・ニコラス・タレブ (著), 望月 衛 (翻訳), 千葉 敏生 (翻訳)

次章では、発券銀行に、発行通貨の供給量をコントロールする能力があるかどうか、という問題が取扱われています。結論は、ポイントを押さえて運営すればできるよ、ってことみたい。

Amazon.co.jp
Amazon.co.jp


貨幣発行自由化論  改訂版ーー競争通貨の理論と実行に関する分析 [ フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) ]

身銭を切れ――「リスクを生きる」人だけが知っている人生の本質
ナシーム・ニコラス・タレブ (著), 望月 衛 (翻訳), 千葉 敏生 (翻訳)

タイトルとURLをコピーしました