今回は、ハイエクの「貨幣発行自由化論」の第5章「法貨の神秘性」から、気になったところのメモと学習ノートを残しておきます。
「貨幣発行自由化論 改訂版――競争通貨の理論と実行に関する分析 」フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) (著), 村井 章子 (翻訳)
(10月の読書会までに、読み終えて感想を共有する予定で準備をしています)
この章でハイエクは、法貨(国家が公私いっさいの取引に通用すると法定した貨幣)が絶対に必要だと私たちが考えるのは、単なる思い込み、先入観だから、議論する価値があるよ、と主張しています。
先入観を取り除け
ほとんどの人々は、政府が貨幣を発行することを当然だと考えているため、貨幣発行権を政府が独占しているのだ、という発想すらできません。
でも、それは先入観に過ぎないのです。
「法貨」に関する法律の規定が厳密に意味するのは、政府発行貨幣によって債務が返済された場合、債権者はその受け取りを拒否できない、ということだけである。
第5章「法貨の神秘性」「貨幣発行自由化論 改訂版――競争通貨の理論と実行に関する分析 」
フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) (著), 村井 章子 (翻訳)
「法貨」と「貨幣」は、同じではありません。ここが分かっていないと混乱しちゃうんですよね。ある必要はないのです。むしろ、インフレが加速した場合、通貨と法貨を同一にしていると、その価値が下落した場合に、大混乱を招く可能性があります。
貨幣の母は国家じゃない
貨幣は、国家によって発明されて、私たちに与えられたものではないのです。
貨幣は社会の進化の過程において、誰も設計することなく自然発生的に生まれたことがわかっている。自然発生的に生まれたものとしてはほかに法律や言語や道徳があり、その中で貨幣はもっとも重要だと言える。
第5章「法貨の神秘性」」「貨幣発行自由化論 改訂版――競争通貨の理論と実行に関する分析 」
フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) (著), 村井 章子 (翻訳)
ここでは、法貨に関する取り決めは、「人々の取引に対して絶対権力が押しつける強制的かつ不自然な解釈」だという意見も紹介されています。
紙幣の価値が下落して、取引が混乱した事例として、南北戦争後のアメリカ、第一次世界大戦後のヨーロッパが取り上げられ、当時の人々が経験したトラブルのイメージを読者と共有しています。
法貨というものは、契約を結んだ時点では当事者がまったく意図していなかったものを契約履行時に受け取らせるための法律的な発明品にほかならない、というのがほんとうのところである。
第5章「法貨の神秘性」」「貨幣発行自由化論 改訂版――競争通貨の理論と実行に関する分析 」
フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) (著), 村井 章子 (翻訳)
なぜ、私たちは一国で一種類の貨幣のみを流通させることの是非について議論しないのでしょうか。
なぜ、私たちは、法貨だけでなく、もっと良い貨幣を持つことが禁じられているのでしょうか。
用語
法貨についての説明は、ニッポニカと世界大百科事典を両方読んだほうが良く分かりますね。
法貨(legal tender)国家から強制通用力の与えられている貨幣のことで,正しくは法定貨幣という。その場合,強制通用力の金額に制限があるかないかによって,制限法貨と無制限法貨の区分がある。日本では金本位制の時期には貨幣法7条および兌換(だかん)銀行券条例4条によって,本位貨幣(金貨)と兌換銀行券は無制限法貨,補助貨幣は制限法貨と定められていた。現在も日本銀行券は日本銀行法29条によって公私いっさいの取引に通用する無制限法貨と定められ,補助貨幣は臨時通貨法3条によってそれぞれ額面の20倍までの金額(たとえば100円貨は2000円まで)を限り通用する制限法貨と定められている。
“法貨”, 世界大百科事典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-10-10)
法貨(legal tender) 国家が公私いっさいの取引に通用すると法定した貨幣のことで、正しくは法定貨幣という。政府の発行・鋳造する本位貨幣、補助貨幣、政府紙幣は当然法貨であるが、中央銀行券も法貨である場合が多い。現在の日本では日本銀行券と小口取引のために用いられる補助貨幣がこれにあたる。法貨は租税その他国庫への無制限な納入が認められるとともに、私人間の取引においても、これの提示者は相手にその受領を強制できるという強制通用力を与えられている。法貨には、私人間の取引において、その金額に制限なく受領を強制できる無制限法貨と、法貨としては一定金額までしか認められない制限法貨(日本ではその額面の20倍まで)とがある。本位貨幣、中央銀行券、政府紙幣は前者、補助貨幣は後者である。
“法貨”, 日本大百科全書(ニッポニカ), JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-10-10)
ハイパーインフレーション hyperinflation
“ハイパーインフレーション”, 日本大百科全書(ニッポニカ), JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-10-10)
きわめて短い間に物価が急激に高騰する激しいインフレーション。超インフレーション、ハイパーインフレともいう。経済学者フィリップ・ケーガンPhillip D. Cagan(1927―2012)による定義では「インフレ率が毎月50%を超えること」であり、国際会計基準の定めでは「3年間で累積100%以上の物価上昇」である。そのおもな原因としては、政府による貨幣や国債、手形の乱発があげられ、とくに歳出や戦費のために大量に紙幣を印刷したことで通貨価値が暴落することが主因とされる。
貨幣発行自由化論 改訂版ーー競争通貨の理論と実行に関する分析 [ フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) ]