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ユーモアってなんだ(神曲 煉獄編)

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読書感想
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何となく分かったような気になっているけれど、本当の意味を理解していない言葉って、けっこうあります。最近、ユーモアという言葉の由来を学んだので、備忘記録を残しておきます。単語ひとつにも歴史があるんだなぁ。

由来はラテン語で体液

ユーモアという言葉のもとはラテン語Humor(フモール)で、日本では、明治20年代(1887年ころ)坪内逍遙が使って日本語としても定着していきました。語源はラテン語の医学用語で体液のことだったんです。それがなぜ感情を表す意味に変化していったのでしょうか。

古代ギリシア: Humor(フモール)ラテン語:古典的医学用語で体液のこと
近代: 英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、日本語へ派生。 気質や気分を表す意味に変化した。特に滑稽さの気質を示すようになる

体液バランスが崩れると気質が変わる

古代ギリシアでは、人間の体内に4種類の体液が流れていると考えられていました。(血液、粘液、胆汁,黒胆汁)これらのバランスが適切であれば、健康なのですが、少しでもバランスが崩れると、人間の気質に変化が生まれると信じられていたのです。例えば、胆汁が多くなりすぎると、メランコリー気質になるとか。

ふと、なんだか血液型診断みたいだな、と思いました。日本では4つの血液型で性格を占ったりするので(A型はまじめ、B型は自由人、O型は大らか、AB型は天才肌など)もしも、タイムスリップして古代ギリシア人と話したら意気投合できるかもしれません。

ダンテの神曲

近代になると、科学的な思考が登場してくるのですが、近世だと、まだ正しい人体のしくみについての知識がないため、このような事実に基づかないイメージで作られた価値観が残っています。それを文学作品のなかでも見ることができます。

[ダンテがウェルギリウスに質問] いっさいの善行もその逆の行ないもみな本を糺すと愛に帰するようですが、では愛とは何なのでしょうか」(中略)「おまえらの認識力は実物から印象を抽き出して、おまえらの中でそれを示し、魂の注意をその印象に向けさせる。もし魂がそちらを向き、そちらへ傾くなら、その傾斜が愛なのだ。」

[ダンテがウェルギリウスに質問] もし愛が私たちの外部から来るもので、魂がそれ以外の足では歩かないとすると、まっすぐに行こうが曲がろうが魂に責任はないことになりますが」(中略)おまえらの中で燃えあがる愛はみなすべて必然的に発生したとしても、それを抑制する力はおまえらの中にある。

神曲 煉獄篇 (河出文庫) ダンテ・アリギエーリ (著), 平川祐弘 (翻訳)

ダンテは古代ギリシアの詩人ウェルギリウスの助けで、地獄から天国へ向かう旅をしているのですが、途中で、このような会話をしています。魂が傾く、つまり体液のバランスが変わることを意味しているようです。

ユーモリストの能力

現代において、「あなたはユーモアがあるね」と言われると、なんとなく褒められたような気になるのは、なぜでしょうか。きっと、この言葉に肯定的な意味が含まれていると感じるからですね。

では、どんな要素が含まれているのでしょうか。プリーストリーが挙げたという4つの要素には、なるほど、と思わされました。

  1. 皮肉を感じとれる能力
  2. 不条理を感じとれる能力
  3. ある程度の現実感覚(自分を客観視して笑える余裕)
  4. 愛情(他者を突き放さず自分と結びつける能力)

イギリスの作家J.B.プリーストリーが《イギリスのユーモア》(1976)で述べるところによると,ユーモアを構成する諸要素のうち,とくに重要なものは,(1)皮肉(アイロニー)を感じとれる能力,(2)〈ばからしさ(不条理)〉を感じとれる能力,(3)ある程度の現実感覚,(4)愛情,である。自分を客観視して笑いのめす余裕と,他者を完全に突き放すことなく愛情によって自分と結びつける能力を兼ね備えてこそ,真のユーモアの持主,すなわち〈ユーモリスト〉となれる。

“ユーモア”, 世界大百科事典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-10-02)

こうしてみると、ユーモアと愛情がつながることに違和感はないのですが、正直をいうと、自分自身では、全く思いもよらなかったのです。

参考

人間の行動その他の現実の事象に対してそれをおかしみの面からとらえ、表現しようとする精神態度、ないしはそこに表現された滑稽(こっけい)さそのものをさす。もとは古代ギリシア以来の西欧の古典的医学用語で体液を意味するフモールhumor(ラテン語)に由来する。人間の体内には血液、粘液、黄胆汁(おうたんじゅう)、黒胆汁の4種の体液が流れており、これらの混合の度合いによって人間の性質や体質が決定されるとされた。近代になってしだいに気質、気分、とくに滑稽さやおどけへの傾向性のある気質の意味で使われるようになり、そこから現在の意味が生じた。

“ユーモア”, 日本大百科全書(ニッポニカ), JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-10-02)
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