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「小指」山本周五郎(1946)爽やかでほろ苦い読後感の恋愛短編(時代小説) 

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読書感想
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1946年(昭和21年)山本周五郎が43歳の時に発表された日本婦道記の小指を読みました。真面目で温厚な人柄で、ちょっと不器用な登場人物たちが描かれている時代小説。親が結婚相手を決め、身分による階級差が当然のようにある武家社会を舞台にした短編の恋愛小説で爽やかな読後感。 読者が期待する結末に向けて、作者は期待を裏切らずに物語を進めてゆきます。(青空文庫のこちらで読めます 「日本婦道記 小指」

当時の文化や価値観を理解する

この物語には、悪人は一人も登場しない。自分の立場をわきまえ、他者の心を慮るという、日本人が何を美徳と感じるのかが丁寧に描かれている。多くの日本人、そして身分格差のある社会を知る人たちは、この物語の世界観を素直に受け止めて楽しめるだろう。

「どうして御覧なさらなかったの、だってその娘さんを見にいらしったのでしょう」
「それはそうですが」平三郎はまじめに頷(うなず)いた、「……然しお母さんという人がたいそう善さそうな方なので、この人の娘ならよかろうと思ったものですから」
 この言葉は母親の心をうったとみえ、なお女の眼がふっと潤みを帯びた、父の新五兵衛は温和な笑いを眼にうかべながら、
「だがおまえ、母親を娶(めと)るわけではないだろう、親が善いからといってその子が善いとは定(き)まっていないぞ」
「それはそうですが、しかし」彼は信じられぬというように父を見た、
「……私は母上が好きですし、この母上があって私の今日があるのだと思いますから、それで大丈夫だと考えたのですがね」
「母上」と、新五兵衛は妻に笑いかけた、「……なにか奢(おご)りますか」
 なお女は微笑した。泣かされた人のような微笑だった。

「日本婦道記 小指」

私も、もちろん、その一人だけれど、ふと、この物語を他の言語に翻訳したとして、どのくらいの説明を追加しなければならないんだろう、と考えた。描かれた時代と文化に対する共通認識がないと、おそらく日本人でも現代の若者には理解が難しいかもしれない。

人間の運命は、どの時代に生まれるか、どんな社会に属するか、どの家庭に生まれるかによって、大きく左右される。この作品のタイトルは「日本婦道記」で副題が「小指」だ。 初出が1946年(昭和21年)だから73年前なんだが、日本社会における夫婦や家族に対する価値観は、当時に比べても激変している。

山本周五郎の作品は、今後も多くの人に読み続けられると思うけれど、横光利一の短編(「蠅」とか)に比べると、日本独特の文化と感情に根ざした山本周五郎の作品のほうが、時代が進むにつれて、若く新しい読者にとっては、難解になっていく気がした。

“Why didn’t you talk with her? because your aim is to get the best wife.” said mother. Heizaburo nodded seriously. “That’s true,” he said, “but her mother seems to be a very nice person, and I thought her daughter would be good as well. These words seemed to strike a chord with his mother, and her eyes began to water. While his father, Shingohei, smiled benignly and said: “But her mother is not your wife-to-be, right? It’s not obvious that even if the parents are great but the children are also good.” He looked at his father incredibly. “I highly respect my mother. I observe she is the reason I am here today. thus I believe it’s enough to check fiancee’s mother.” Father smiled at his wife when he heard his son’s compliments. “Well, well, Mrs. Nao, should we give some gift to our son?” Mother smiled like a crying person.

引用した部分を、試しにちょっと英訳してみましたが、直訳だと意味が通らないし、難しいですねぇ。。。

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山本周五郎の作品は青空文庫で94作品が無料公開されています。アマゾンのアンリミテッドで読める作品も多数ありました。 

参考

山本周五郎(やまもとしゅうごろう)1903-67(明治36-昭和42)

小説作者。山梨県生れ。本名清水三十六(さとむ)。横浜市西前小学校卒業後,東京木挽町の山本周五郎商店(きねや質店)の徒弟となり正則英語学校に学んだ。関東大震災で罹災,文学の新天地を関西に求め地方新聞記者,雑誌記者を体験して帰京後《日本魂》編集者となった。1926年《文芸春秋》に投じた《須磨寺附近》で文壇に登場,32年以降《キング》《講談雑誌》を主舞台とし,43年《小説日本婦道記》が直木賞候補になるや直ちに辞退,後すべての文学賞を固辞した。主に江戸時代に材をとり,武士の哀感や市井の人々の悲喜を描くなかで,徹底して庶民の側に立った稀有(けう)な反権力の作者であり,狭義の純・大衆文学の境域をはるかに超えた広い層の読者を持つ。戦後の進境はとくに目覚ましく,代表的短編に《つゆのひぬま》《将監さまの細みち》《落葉の隣り》《おさん》。長編に《樅ノ木は残った》《青べか物語》《赤ひげ診療譚》《虚空遍歴》《さぶ》《ながい坂》がある。

“山本周五郎”, 世界大百科事典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2021-09-03)

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