読書感想

「城」フランツ・カフカ著(1926年)

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読書感想
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岡敦「強く生きるために読む古典」第8章でカフカの「城」が解説されており、興味を持ったので読み始めた。実は中学生の頃に、カフカの「変身」を読んで、グレゴール・ザムザに同調してかなり気分が落ち込んだ記憶がある。だから、カフカを読むと、また気持ちが悪くなるのでは、とちょっと抵抗があったが心配は無用だった。

未完の作品

この作品では、ゾッとするような気持ち悪さは感じなかった。でも、ちがう意味で頭の中が引っかきまわされた気分で読み終わった。というのも、この小説を完成させずにカフカが死亡してしまい、彼は、この作品を処分することを望んでいたにも関わらず、公になった作品だからだ。

プツンと途切れた文章からは、海外旅行で、それまで案内してくれていたガイドが突然、全然見知らぬ場所で自分を置いて消えてしまったような不安を感じさせられた。

え?ここは、どこ?これからどうなるの?そんな不安な気分で読者は置き去りにされてしまう。

不条理劇

物語は、主人公である測量士Kがある村を依頼によって仕事で訪れたところから始まり、依頼主らしき城主に会おうと試行錯誤を繰り返すが、なぜか城に行きつくことができない、という不可思議なもの。

私は何だか、おかしな夢を見ているような奇妙な感覚になって測量士Kが一体ほんとうは何者なのか、何をしたいのか、よく分からなかったのだけれど、この作品を岡さんは「成し遂げられていない物語」だと読み取っていた。

日常に馴染む恐怖

日常に馴染むことで夢を忘れてしまうことは、「挫折」だから主人公Kはそれを最も恐れて戦っている、と岡さんは解釈する。

実際、人々が「夢を諦める」理由の多くは、「大きな困難にぶつかったから」ではなく、「日常に馴染んでしまったから」のように見える

岡敦(著)「強く生きるために読む古典」第8章「城」(カフカ)成し遂げられていない物語

私の目には、測量技師Kが自己中心的な女ったらしで鼻もちならないヤツに感じられる。

モテモテ測量技師K

彼は閉鎖的な村に外部からやってきた男で、なぜか数人の村の女たちは、会ったばかりなのに彼のことが好きになってしまうという奇妙な展開だ。

私は岡さんのように、Kの行動を好意的には捉えられない。

(酒場の女フリーダに対して)「まさにそれが私の心の奥底の意図だったのです。あなたはクラムを捨てて、私の恋人になるべきだ、というわけです。これだけいえば、もう出ていけます、オルガ!」とKは叫んだ。

「城」フランツ・カフカ 原田義人訳 青空文庫

城へたどり着くためのキーパーソンであるクラムと近づくために、クラムの恋人であるフリーダを口説くK。

彼はオルガの、人の心をそそるようでも威圧的でもなく、内気そうに安らい、いつまでも内気そうにしている青い眼を心楽しく見ていた。

「城」フランツ・カフカ 原田義人訳 青空文庫

城の使いをしている青年バルナバスの姉オルガも、Kにとっては、城に近づくという目的を達成するために必要な情報源である。

Kがそっと髪の編み目の一つに手をのばし、それをときぼくしてみようとすると、ペーピーは疲れたように「かまわないでちょうだい」といい、彼と並んで樽の上に腰を下ろした。

「城」フランツ・カフカ 原田義人訳 青空文庫

フリーダの後任で酒場で働くことになったペーピーは、Kが自分のために、Kがフリーダを酒場から辞めさせたと信じ、Kに好意をよせている。

なんとも奇妙なモテモテっぷりではないか。

自分の目的を達するために、女たちを道具のように利用しようとするKと、それを知りつつ彼の魅力になぜか負けてしまう女たちとの奇妙な関係性は、この物語の見どころのひとつだろう。

結末は自分で創造してみる

もしも私が著者なら、どんな結末を用意するだろう。Kは城にたどり着いて、依頼主とされる侯爵に会えるのだろうか。

それとも、自らの夢を捨てて村の女たちとの日常に馴染むのか。
あるいは、村を捨て、あらたな旅にでるのか。

カフカに幸福な結末は似合わないし、悲しい結末かな。
などと、勝手に想像してみるのも「城」の楽しみ方かもしれない。

*2019年8月25日に下書きのまま放置していたこのブックレビューをようやく書き終えた。

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