父がハーモニカで吹いてくれた「故郷」(ふるさと)を聴きつつ、歌詞を口ずさんだら、なぜか涙がこぼれたもんざです。子どもの頃は、「ウサギ美味しい、ってウサギを食べる歌なの?」って、歌詞を茶化して笑っていたものですが。今回は、故郷(唱歌)と、この歌と同時に思い出した詩「故郷は遠きにありて思うもの」(室生犀星)について、調べてみました。
故郷(唱歌)
この歌は、小学校の音楽の教科書に載っていた記憶があるのですが、いつ誰が作ったものなのか、まったく知りませんでした。作詞は、長野県出身の高野辰之氏。春が来た、朧月夜など、小学校の音楽の時間に習う曲は、岡野貞一氏とのゴールデンコンビで生み出されていたようです。(高野辰之作詞一覧を参照)高野さんの歌詞は、声に出して歌うと、情景が目の前に広がる気がするのですが、それって私だけ?100年を越えて、善世代に親しまれる歌の魅力なのかな。それとも、単純に子どもの頃から歌って暗記しているからでしょうか。
日本の唱歌の題名。作詞:高野辰之、作曲:岡野貞一。発表年は1914年。2007年、文化庁と日本PTA全国協議会により「日本の歌百選」に選定。
“故郷(ふるさと)〔唱歌〕”, デジタル大辞泉プラス, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2021-06-02)
高野辰之たかの-たつゆき(1876−1947)明治-昭和時代の国文学者。
“たかの-たつゆき【高野辰之】”, 日本人名大辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2021-06-02)
明治9年4月13日生まれ。上田万年(かずとし)に師事,明治43年東京音楽学校(現東京芸大)教授となる。日本の歌謡,演劇史の学術的研究をおこない,「日本歌謡史」で昭和3年学士院賞。「春が来た」「朧(おぼろ)月夜」「故郷(ふるさと)」などの文部省唱歌を多数作詞した。昭和22年1月25日死去。72歳。長野県出身。長野師範卒。号は斑山。著作に「日本演劇史」「日本歌謡集成」など。
岡野貞一おかの-ていいち(1878−1941)明治-昭和時代前期の作曲家。
“おかの-ていいち【岡野貞一】”, 日本人名大辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2021-06-02)
明治11年2月16日生まれ。大正13年母校東京音楽学校(現東京芸大)の教授となる。「春が来た」「水師営の会見」「春の小川」「故郷(ふるさと)」などを作曲し,「尋常小学読本唱歌」「尋常小学唱歌」などの編集にあたった。昭和16年12月29日死去。64歳。鳥取県出身。
高野辰之作詞一覧(長野県中野市ホームページより)
室生犀星の小景異情
「故郷は遠きにありて思うもの」というフレーズが、ポンと頭に浮かんできましたが、誰が作ったのかはネットで検索して知りました。この一文が含まれる詩は、青空文庫で全文を読むことができます。(『抒情小曲集』室生犀星 )
関西吟詩文化協会のウェブサイトに、語意と詩意が丁寧に解説されており、内容の理解が深まりました。あるまじや=あるまい、かへらばや=帰りたいものだ、という語意は、現代の日本語では使われおらず、理解に戸惑うところですが、犀星の詩で読むと風情を感じます。
ふるさとは遠きにありて思ふもの
『抒情小曲集』室生犀星 小景異情 その二
そして悲しくうたふもの
よしや
うらぶれて異土の乞食かたゐとなるとても
帰るところにあるまじや
ひとり都のゆふぐれに
ふるさとおもひ涙ぐむ
そのこころもて
遠きみやこにかへらばや
遠きみやこにかへらばや
室生犀星むろう-さいせい(1889−1962)大正-昭和時代の詩人,小説家。
“むろう-さいせい【室生犀星】”, 日本人名大辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2021-06-02)
明治22年8月1日生まれ。逆境の幼少期をへて詩人をこころざす。大正2年北原白秋の主宰誌に「小景異情」を投稿し,生涯の友萩原朔太郎と知りあった。7年「抒情小曲集」を刊行。30歳代から小説に転じ,「あにいもうと」,「杏(あんず)つ子」(昭和33年読売文学賞),「かげろふの日記遺文」(34年野間文芸賞)などの代表作がある。芸術院会員。昭和37年3月26日死去。72歳。石川県出身。本名は照道。作品はほかに「我が愛する詩人の伝記」など。
【格言など】私をすくうてくれた女の人は,悉(ことごと)くはたらく場所にいた人達である(「顔というもの」)
郷愁とは縁遠いのに
年月と経験は人を変えますね。あとは環境かな。実際のところ、私は郷愁という感情とは縁遠いタイプだと思っています。だから、余計に高野さんの歌詞や犀星の詩に含まれる、しっとりと重い故郷への情感に、いま自分の心がこんなに動かされることに驚いています。犀星の詩は、ゆっくりと時間をとってあらためて読むことにします。なぜあんなに美しくて不思議な文章が書けるんだろう。