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「貨幣発行自由化論」第19章 ねぇ、前に言ってたことと違うよね?

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今回は、ハイエクの「貨幣発行自由化論」の第19章「固定相場制より望ましい規律」から、気になったところのメモと学習ノートを残しておきます。

「貨幣発行自由化論  改訂版――競争通貨の理論と実行に関する分析 」フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) (著), 村井 章子 (翻訳)

この章では、過去にハイエクがずーーっと、固定相場制が良いって言ってたことに対して、貨幣発行自由化論の内容は正反対なんじゃないの?と指摘されるかもしれない、って前置きから始まります。
いや、違うんだよ、あの考えの基本になっていた部分を発展させたら、2つの理由からこうなったんだ、という内容が語られています。結論は変わりません。政府の独占発行はダメ。

金本位制が良くない

ハイエクが固定相場が良い、と考えていた根拠は、需要や供給のバランスが崩れたとき、それを調整するために、自国のモノやサービスの値段が、他の国のモノやサービスの値段に連動して動いちゃダメだろ?ってことみたい。

でも、みんなが国内価格がそんなふうに上下しちゃうことが当然だって誤解してたから、それに対して異議を唱えてたのね。みんながそう考えるようになった原因は、統計データがあるからなんだって。

つまり統計では、一国の物価の平均的な動向が指数の形で示されるため、そこに表れる通貨の「国内価値」が他国の通貨の価値に比例して変動すべきだという誤った印象を与える。だが本来必要なのは、その市況商品の各国間の相対価格を調整することのほうである。

第19章「固定相場制より望ましい規律」「貨幣発行自由化論  改訂版――競争通貨の理論と実行に関する分析 」
フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) (著), 村井 章子 (翻訳)

ここ、ちょっと分かりにくかったんだけど、たぶん、通貨を動かすんじゃなくて、各国によって値段の差が出ちゃっている商品や、サービスの「相対価格」の調整しなきゃダメ、ってことらしい。

それで、もし各国の価格全般の関係調整が必要だっていう仮定が正しいなら、金本位制がベースになってる国際通貨制がダメだから、ってことになるそうな。(相対価格については、ニッポニカの説明が分かりやすかったです)ここまでが最初の理由ね。

通貨発行機関には規制が必要

二番目の理由は、ハイエク自身に、中央銀行から通貨発行の独占特権を取り上げる、という発想が欠けていたからだ、とのこと。ハイエクに限らず、当時は誰もそんなことを想像すらしていなかったから、固定相場制が必要だと考えていたんだって。

当時は、金本位制とか、固定相場制とかが、通貨発行機関に規律を強制する目的をいくらか果たしていたから、それで行くしかない、と思ってたんだけど、結局のところ、それじゃ政府の違反をなんとかできるほど強くもないし、十分でもなかったってわけ。

賢明且つ政治的に独立した通貨当局ならば、金または他国通貨との固定相場の維持を強制されて行動するより、ひょっとするとうまくやれるのかもしれない。私はそれを否定するつもりはない。だが現実の世界の通貨当局に関する限り、善き意図を長期にわたって貫き通せるとは思えない

第19章「固定相場制より望ましい規律」「貨幣発行自由化論  改訂版――競争通貨の理論と実行に関する分析 」
フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) (著), 村井 章子 (翻訳)

なぜ考えを変えたのか

そしてハイエクは、突然ひらめいたみたい。暗黙のうちに、自分自身のなかで決めつけていた考えを根本から覆すようなアイデアが閃いちゃった。

私は1960年まで、つまり比較的最近まで、政府から貨幣発行権を奪うことは現実的ではないし望ましくもないと考えていた。たとえ可能だとしても、である。そう考えたのは、どの国もただ一種類の貨幣を持つべきだという暗黙の共通認識にまだ依拠していたからだ。一つの国または地域の中で複数の通貨が競争する可能性など、考えもしなかった。一種類の貨幣しか発行を許されないなら、その独占発行権はたしかに政府の監督下に置くべきだろう。

第19章「固定相場制より望ましい規律」「貨幣発行自由化論  改訂版――競争通貨の理論と実行に関する分析 」
フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) (著), 村井 章子 (翻訳)

あれ~?一国一通貨じゃなきゃダメってどうして思い込んでたんだろう?って感じなんでしょうね。
エウレカ!!の瞬間だったんだろうな。

次の第20章「個別の通貨圏を形成すべきか?」では、第19章でも話にでてきた一国一通貨制について、そういう枠を取っ払って考えよう!という面白い視点が語られています。

参考

商店で日常目にする価格、たとえばリンゴ1個200円、ナシ1個100円、バナナ一房300円などのように貨幣によって表示されたものを絶対価格absolute priceまたは貨幣価格money priceという。絶対価格は、ある商品一単位が何単位の貨幣と交換されるかを示している。次にリンゴ1個とバナナ一房は何個のナシと交換されるかを考えてみよう。そのためには、リンゴとバナナのそれぞれの絶対価格のナシの絶対価格に対する比率、つまり200対100、300対100を考えるとよい。前者の比率の値二は、リンゴ1個とナシ2個とが、また後者の比率の値三は、バナナ一房とナシ3個とが、それぞれ交換されることを示している。これらの比率の値二と三とが、ナシ表示によるリンゴとバナナの相対価格relative priceである。商品の価値を比較するときに基準とされる商品(いまの例ではナシ)を価値尺度財(ニューメレール)という。ある商品の相対価格は、その商品一単位が何単位の価値尺度財と交換可能かを示すのである。このような観点からすると、ある商品の絶対価格は、貨幣を価値尺度財とする相対価格と考えることもできる。その商品一単位が価値尺度財である貨幣の何単位と交換可能かを示すのが、その商品の絶対価格だからである。

“絶対価格・相対価格”, 日本大百科全書(ニッポニカ), JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-12-02)

外国為替相場の変動を全く認めないか、またはごくわずかの変動幅しか認めない制度。金本位制度下や旧IMF体制のもとでの為替相場制がその例。固定相場制。

“こてい‐かわせそうばせい【固定為替相場制】”, デジタル大辞泉, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-12-02)

外国為替相場を固定しないで市場の需給による変動に任せる制度。変動相場制。フロート制。

“へんどう‐かわせそうばせい【変動為替相場制】”, デジタル大辞泉, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-12-02)

外国通貨と自国通貨との交換比率。外貨建て相場と邦貨建て相場の別がある。為替レート。→実効為替レート

“がいこくかわせ‐そうば【外国為替相場】”, デジタル大辞泉, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-12-02)

多数の国の通貨が取引される外国為替市場における通貨の相対的な実力を図る指標。対象となるすべての通貨との2通貨間為替レートを、貿易額などに応じてウエート付けして算出したもの。国際決済銀行(BIS)や各国の中央銀行が集計・公表している。物価の変動による影響を考慮して調整した数値を実質実効為替レート、調整前の値を名目実効為替レートという。

“じっこう‐かわせレート【実効為替レート】”, デジタル大辞泉, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-12-02)


貨幣発行自由化論  改訂版ーー競争通貨の理論と実行に関する分析 [ フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) ]

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