今回は、ハイエクの「貨幣発行自由化論」の第14章「貨幣数量説が無用であることについて」から、気になったところのメモと学習ノートを残しておきます。
「貨幣発行自由化論 改訂版――競争通貨の理論と実行に関する分析 」フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) (著), 村井 章子 (翻訳)
この章では、ケインズとフリードマンへの反論、そしてハイエクの経済学者としての信念が語られています。結論としては、みんなが自分の案は実現不可能だっていうけど、問題は今できるかどうか、ってことじゃなくて、現在のやり方を続けて、またひどい状況になるのをどうやって防ぐかを考えて、最適な方法は何かを見つけることだし、自分はそれを見つけたんだよ、だから、それを政治家に伝えることが経済学者である自分の使命でしょ、ってことでした。
今できなくても
そうか、経済学者って、そんな崇高な使命があったのかと、ここまで読んできて初めてハイエクをかっこいいな、と思いました。
経済学者の仕事は、今日政治的には不可能と見えることを政治的に可能にすることであるはずだ。現時点で何が可能かを決めるのは政治家の仕事であって、経済学者の仕事ではない。経済学者は、現在のやり方を続ければ悲惨なことになると言い続けなければならない。
第14章「貨幣数量説が無用であることについて」「貨幣発行自由化論 改訂版――競争通貨の理論と実行に関する分析 」
フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) (著), 村井 章子 (翻訳)
なるほどね、と思いつつ、現代社会の状況を引き比べてみると、ちょっと暗い気持ちになります。だって、日本(これとか、これとか)やアメリカでは政府の意向に逆らうような発言をする学者や、メディアは、良ければ無視、最悪だと仕事を奪われる始末。
すべての人にとって、より良い社会を作るために協力して、新しい発想を取り入れたり、改善するためには、権力を持っている人こそ、自分自身にとって耳の痛い話を謙虚に聴く姿勢がなきゃいけないと思うんですけど。現代民主主義って、そういう人が政治家になれないしくみになってんのかな?
あ、脱線してた。もとの話に戻ります。
物価連動制は付け焼刃
経済学者ミルトン・フリードマンが物価連動制を肯定的にとらえている点をハイエクは批判しています。フリードマンの提案は、実務上の必要性から出ているのは分かるけど、結局それじゃケインズ経済学の出発点と変らないし、長期的な視点で考えると市場経済を破壊する気がするよ、と。
インフレの一部の症状に対してこのように中途半端な治療を行うと(注:物価連動制のこと)、インフレに対する抵抗を弱め、インフレをむしろ助長し長引かせることになりかねない。そして長期的には、インフレによる損額、とくに失業増による苦痛を深刻化させることになる。
第14章「貨幣数量説が無用であることについて」「貨幣発行自由化論 改訂版――競争通貨の理論と実行に関する分析 」
フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) (著), 村井 章子 (翻訳)
このあとに、冒頭で引用したところ、私がグッときた文章が続くわけなんですけど、ハイエクが言いたいのは、いや、私たちは科学者たる経済学者なんだから、政治的に現在必要かどうかに関心を向けすぎるのは、筋がちがうよね?と、チクリチクリと言葉でフリードマンを刺しています。
民間通貨で実験しようよ
ハイエクは圧倒的に政府を信用してないんですよね。でも、その姿勢って、めちゃくちゃ大事な気がします。個人であれ、組織であれ、権力は監視されていなければ、長期化するにつれて、暴走したり腐敗する可能性が高いことは歴史が証明しています。
私がいま提案するような貨幣制度は、政府の権限を制限しなければ実現不可能であるが、そのような政府はまだ存在しない。しかし政府の権限が制限されたならば、貨幣発行の独占権を取り上げることが必要になるだろう。
第14章「貨幣数量説が無用であることについて」「貨幣発行自由化論 改訂版――競争通貨の理論と実行に関する分析 」
フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) (著), 村井 章子 (翻訳)
政府が自国の通貨下落に慌てふためいて、無理矢理に自国通貨を国民に強制し、大混乱になった歴史や、もし欧州でドル使用が許可されていたら、きっと多くの人が使っていただろう、という事例をあげています。
そして最後に改めて、20世紀を代表する自由主義者フリードマンへの皮肉として、常に独占を批判しているのに、どうして貨幣だけは自由競争がベストな選択だって信じられないのかな?と疑問を投げかけています。
次の第15章では、貨幣が中立になるってのは幻想ですよ、良貨は悪貨を駆逐しますよ、というお話と、安定した物価水準の維持って本当に可能なの?という話題です。
Friedman, Milton(1912.7.31~2006.11.6)アメリカの経済学者.ニューヨーク市生まれ.ラトガーズ,シカゴ,コロンビアの諸大学に学び,全米経済研究所(NBER)研究員 [1937-40] ,財務省租税調査局主任研究員 [41-43] ,コロンビア大学統計調査グループ次長 [43-45] ,ミネソタ大学 [45] などを経て,シカゴ大学に移り [46] ,同教授となり [48-77] ,シカゴ学派を率いた.消費分析における恒常所得仮説の提起,自由変動為替相場制や負の所得税などの政策的提言でも有名だが,最も重要な業績はニュー・マネタリズムの体系化である.20世紀を代表する自由主義者.アメリカ経済学会会長 [67] ,ノーベル経済学賞受賞 [76] .反グローバリズムの立場からは〈新自由主義〉の代表者として批判された.
“フリードマン(Friedman, Milton)”, 岩波 世界人名大辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-10-29)
貨幣発行自由化論 改訂版ーー競争通貨の理論と実行に関する分析 [ フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek) ]