8.2. ふりかえり Retrospective8. Trial&Error9. 読書会(勉強会)課題図書

第6回純文学読書会の感想

当記事には広告が含まれている場合があります
当記事には広告が含まれている場合があります
8.2. ふりかえり Retrospective
この記事は約5分で読めます。

にしやまさん、maruさん、mayakoさん、ご参加いただき、ありがとうございました。

みなさんと一緒に考えを深めることができて、本当に良かったです。
この機会がなかったら、きっと、最後まで読み終えることができず、
イシグロ作品の魅力をここまで堪能できなかったでしょう。

自分なりに、今日みなさんと話し合ったことをアウトプットしてみました。
私の印象と記憶に基づいた記録なので、実際にみなさんが語った内容と齟齬があるかもしれません。あれ?変だぞ?と思ったら、ご指摘ください。

個人的には「人間の使命とは何か」「犠牲をどのように考えるか」「真実を伝えることが必ずしも善なのか」など、深遠な疑問の種を新たに心の中に蒔くことができて、満足でした。

▼印象に残った場面

・(もんざ)ノーフォークでキャシーのお気に入りのカセットテープを探す場面
→色々な伏線が繋がり、また新たな伏線を作る構成力に脱帽。
・(にしやまさん)リトルハンプトンにいるマダムにキャシーとトミーが会いに行き、交渉する場面
→真実が明らかになり、点が線につながる瞬間。
・(maruさん)キングスフィールドの回復センターでトミーが黒い手帳に描いた架空生物の絵をキャシーに見せる場面
→トミーのキャシーへの配慮が高い包容力を感じさせ、彼の人間的な魅力が理解できる。
・(mayakoさん)ヘールシャムでは生徒たちを恐れていたマダムが、リトルハンプトンでは、本能的な恐怖を克服してキャシーの頬に触れて涙している場面
→人間の心理の複雑さを見事に描き出している。

▼感想・意見・そのほか
・最初は意味が分からない点が多くて読みづらく、取っつきにくいが、途中から不明な点が繋がりだすと、結末まで一息で読める。
・エミリ先生とルーシー先生は生徒への教育方針が異なる。トミーはエミリ先生の方針を間違いだと言うが、どう思うか。
→子どもの精神状態を健全に保って成長させるためにはエミリ先生の方針で良いのでは。
→あの環境に適合できない子どもには真実が必要かも。
→いつ、どこまで、何を教えるのか判断に迷う。
・印象に残った人物はルーシー先生。理想主義者。
・翻訳者の土屋さんは元IBMの技術翻訳者。名訳だと思う。
・同じ本を読んでいるのに、印象に残る言葉や場面が、参加者によって違うのが面白い。
・イシグロの本は一人称で語られるものが多いが、主人公は「信頼できない語り手(unreliable narrator)」と言われる。ただ、この作品に関しては、「日の名残」ほど、読者を混乱させる語り手ではない。31歳の女性という設定だからか。
・私たち人間の身体が「動的平衡」であるならば、自分を自分であると規定するものは記憶なのではないか。
・キャシーは、自分の記憶(親友・恋人の思い出)を残すために語っている。
・次に読むなら「日の名残」がオススメ。
・1回目に読んだ時にはトミーの良さが分からなかったが2回目に読んだら、理解できた。
・ルースは、女性目線では、性格に問題があり、あまり魅力的に感じられないが、自分にとても正直で男性にとっては、わがままだけれども魅力的な女性と感じられるのかもしれない。
・キャシーは非常にルースを大切にしていたことが、細かな観察と描写から伝わってくる。
・なぜヘールシャムの子どもたちが運命から逃れようとしないのか→イシグロは意識して、それを描かなかった。死から逃れられない人間の運命を描くことが目的だったから。
・キャシーがコテージ時代に読んでいた「ダニエル・デロンダ」には「捨身飼虎」(しゃしんしこ)という有名な仏教説話が盛り込まれているそうです。(前世の釈迦が飢えた母虎に我が身を食わせて子虎を助ける話)→ここまで計算しているイシグロの構成力と緻密さがすごい
・なぜ90年代後半の舞台設定なのか
→クローン羊ドリーは、意識したとイシグロが語っていた。
→この時代設定にすることが一番作者の意図に叶っていた。

▼関連情報

・ETV特集 アンコール「カズオ・イシグロをさがして」
2017年12月9日(土) 午後11時00分(90分)
https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/20/2259609/index.html
受賞のしらせに「フェイクニュースの時代、間違いかと思った」と取材陣を笑わせたカズオ・イシグロ。物静かな中にもユーモアを忘れない人柄は、作品にも共通するものだ。常に小説スタイルを変えるとされるイシグロだが、一貫するテーマは「記憶」だ。そこには生まれ故郷の長崎との深い関係がある。「わたしを離さないで」「日の名残り」など作品の魅力を、分子生物学者の福岡伸一、女優ともさかりえらが、それぞれの視座から探る。

・カズオ・イシグロ 文学白熱教室

・新版 動的平衡: 生命はなぜそこに宿るのか (小学館新書)
福岡 伸一 (著)
http://amzn.to/2nlp1Hx

・ダニエル・デロンダ〈1〉
ジョージ エリオット (著),‎ George Eliot (原著),‎ 淀川 郁子 (翻訳)
http://amzn.to/2BAqDlS

・カズオ・イシグロの「信頼できない語り手」とは
ベストセラーからアメリカを読む 渡辺由佳里
https://www.newsweekjapan.jp/watanabe/2017/10/post-36.php

・カズオ・イシグロ「名翻訳家」の意外な過去。『日の名残り』に出会うまで
https://www.excite.co.jp/News/column_g/20171018/BestTimes_7131.html
http://best-times.jp/articles/-/7157
http://best-times.jp/articles/-/7158

タイトルとURLをコピーしました