「Z世代~若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?」 (光文社新書) 原田 曜平 (著)を読んだので備忘記録を残しておきます。
著者はこの本の執筆当時、博報堂のマーケティングアナリストで若者文化研究を専門としていた。そのため机上のデータだけでなく、実際にフィールドワークで若者たちから1次情報を得ているようで、示される情報に説得力がある。(2022年4月からは芝浦工大の教授に就任されたとのこと。[1])この本は、マーケティング施策を考える人にアイデアを与える内容だと思っていたが、それだけにとどまらず、自分の視野の狭さを自覚させられる点も多く、良い意味で期待はずれだった。
世代間のギャップはいつの時代も存在するもの。誤解も偏見もあるだろうが、理解したいという気持ちがあれば、差を縮めることもできる。とはいえ、そこが難しいとも言える。気心のしれた人たちとだけ、交流していればストレスはないからだ。いまや世代や国境を超えて、さまざまな人々と自由にコミュニケーションできる時代になっている。しかし、気軽に壁を超えられる人ばかりでもない。気になる、でも自分で行動するには、ためらいがある、という人に、この本は役立つ。
結論としては、Z世代の思考や傾向をつかむには、彼らが多数利用している媒体をチェックすることが重要らしい。でも、それは大変そうだなぁ。
以下は、本文から気になったところの抜粋と個人的な感想です。
年代別のアプリ利用率と政策
感染症対策は、スマートフォンを保持していることが前提みたいになっている。特に東南アジアで複数国を移動する人はスマホなし=アプリ使用なしだと不便すぎでしょう。。。日本の接触確認アプリの失策は興味深い事例だと思う。
話を図4-29に戻すと、スマホ所有率がまだ6割の中学生のLINE利用率は62.9%で、ミドルのLINE利用率は63.9%でした。私はずっとメディアと関係する広告やマーケティング業界にいるので、同じ業界でLINEを使っていない中高年を見たことはありませんが、同窓会などで昔の友達に会うと、40代でもLINEをダウンロードしたけど使っていない、ダウンロードしていない、使い方がよく分からないという人がいて、とても驚くことがあります。この「アプリの王者」とも言えるLINEでさえ、ミドルの利用率が6割なのに、6割の人が登録しないと機能しないと言われる、政府が新型コロナ対策のために作った「接触確認アプリcocoa」を、普及させることができると本気で考えたのでしょうか?ちなみに、フェイスブックメッセンジャーは、若年層の3.6%しか利用しておらず、フェイスブック同様、若者からは少し距離の遠いコミュニケーションツールです。アメリカのティーンにかなり普及しているスナップチャットは、日本の若年層の間では3.7%しか使われておらず(高校生女子では8.9%)、LINEが普及している日本のZ世代と、スナップチャットが普及しているアメリカのZ世代の最大の違いと言うことができます。
(第4章 「Z世代のメディア生活」)「Z世代~若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?」 (光文社新書) 原田 曜平 (著)
日本政府はアプリ開発の時点で市場調査(アプリ普及率など)をしていないのだろうか?もしも、していないとしたらなぜなのか?調査をした結果、開発する決定をしたのならば、それはなぜなのか。当時の経緯などを分析した情報を読むことができたのは、収穫だった。[2]成功したものよりも、失敗したものからのほうが学べる。私自身はLINEを使用しているが、それは家族や友人とのコミュニケーションに必須だからだ。Twitter、 Facebook、 Instergramもアカウントを持っているが、それぞれ繋がる人が違う。正直に言えば、最初はなんだか面倒だと感じていた。ところが、使えると世界が広がる場面もある。情報収集をするという目的を持っていれば、自分で情報を発信しないとしても、特定のSNS枠のなかで、誰が何を話題にしているのかを眺めるのは有効だろうし、自分がいつも使用しているSNS(Facebook、twitter)での情報が限定的なものであって全てではないと自覚的になれる。
外交とメディアの影響力
どうしておじさまたちが「嫌韓・嫌中」なのか、いまだによく分からないが、隣国の文化を貶めるのではなく尊重する流れが発生し、友好関係が築けるのではれば、良い傾向ではないだろうか。古い価値観から新しい価値観への移行は、世代交代によって進むという見本のようで興味深い。
「中国の製品は品質が悪そうだ」「中国という国自体が信用できない」といった、これまで日本人が多かれ少なかれ抱いていたイメージは、Z世代の女性の間で完全になくなっていませんが、少なくなってきています。韓国と違い、「中国を旅行したい」というZ世代の女子はまだ少数派だとは思いますが、「嫌韓・嫌中」のおじさまたちも、「日本のZ世代女子研究」という目的で、韓国や中国の市場を研究しなくてはいけない時代になりつつあります。現在、日中、日韓の間では、決して良好とは言えない政治的な緊張関係が続いていますが、もともとどの国の市場でも、女性の方が政治と消費を切り離す傾向が強い、と言われています。また物心ついた時には中国が経済大国としてすでに存在していたZ世代にとって、中国はすごい国というイメージがあり、この点も上の世代とは感覚が異なっていそうです。いずれにせよ、今、Z世代の間で、「華流」の兆しが生まれているのは間違いありません。
(6章 Z世代をつかむツボ)「Z世代~若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?」 (光文社新書) 原田 曜平 (著)
この記述に関連して嫌韓の発生原因を考察した論文[3]を読み、メディアの影響力を再認識した。陰謀論にはまる人の傾向と対策もあわせて再チェック。[4]何気なく日々ふれるメディアで、好悪の感情が無意識にふわっと形成されていくことを自覚すべきかも。
フィルターバブル
トランプ大統領が誕生した2016年のアメリカ大統領選で、彼が大統領になると予想したメディアはほとんどありませんでした。メディアが集中するニューヨークやロサンゼルスは、人種が多様なこともあり、リベラルな人が多く、その土地の人々の話だけを聞いて鵜呑みにすれば、彼が大統領になるはずはないと思ってしまいます。ところが、アメリカの田舎に行けば、当然トランプを支持する人もたくさんいるし、大都市部にも隠れトランプ支持者がいたわけです。これと同じで、多くのメディアや大企業が接する若者は、東京や大阪の大都市部に住み、かつ高学歴の(その中でもごく一部の意識高い系)特殊な若者であることが多い。いつの時代も普通の若者は怠惰であり、起業したりNPO団体を立ち上げたりはしませんし、大人とうまくコミュニケーションを取れないものです。つまり、代表性が一切ない若者をその象徴として捉えてしまう大人が非常に多いのです。
(6章 Z世代をつかむツボ)「Z世代~若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?」 (光文社新書) 原田 曜平 (著)
自分が知っている狭い範囲の知識で、物事に対して先入観を持ってしまうことに注意が必要であるという良い例だろう。フィルターバブルに入ってしまうと、自分自身では先入観に気づきにくいため、そこに自覚的になる必要がある。「中国人だから」「大阪人だから」「女だから」「若いから」とか、個々の差異をそぎ落とし分かりやすく自分が知っている狭い範囲で定型化しようとする傾向は大人だけでなく人間全般が持つ脳の特徴になる。[5]
参考
[1]テレビはZ世代とシニア世代をどう繋ぎ止めるか(東洋経済オンライン 2022/10/6)
[2] COCOAの開発経緯について調べた(Qiita 2021/6/17)
[3] 「嫌韓」の担い手と要因──2009年と2013年の2時点のデータ分析による解明/田辺 俊介(早稲田大学文学学術院 教授)早稲田大学大学院文学研究科紀要 63 67 – 82 2018.03
嫌韓、特に2012年以降の一定の社会的広がりをもつに 至った嫌韓(それに嫌中)は、国家間の地政学的な紛争が「国対国」というレベルの人々の集団 志向性(Haidt 2012=2014)を刺激したことが原因で生じたものと考えられる。広くメディアで 流布された韓国や中国との地政学的な衝突という情報によって、少なからぬ人々が「日本対韓国」 (あるいは「日本対中国」)という国家間の対立イメージを抱くこととなった。それによって日本 人としての集団志向性が高まり、同時に対立対象への敵意をも生じたと考えられる。また特に、 そのような集団志向性の道徳基盤が特に強いと考えられる愛国主義の強い人々が反応し、強い嫌 韓感情を生み出し、その一部は嫌韓層になっていった、と想像できるであろう。
「嫌韓」の担い手と要因──2009年と2013年の2時点のデータ分析による解明/田辺 俊介(早稲田大学文学学術院 教授)早稲田大学大学院文学研究科紀要 63 67 – 82 2018.03
[4] 「陰謀論」にとらわれる人の傾向と対策(ビッグイッシューオンライン 2022/08/16)
[5] Factfulness by Hans Rosling Ch6 The Generalization Instinct