知人がオンラインの仏教講座に参加していると言うので紹介してもらって、初めて無料の公開講座に参加してみました。テーマは「怒り」。
怒りの発生原因を知り、対処方法を考えれば、状況を改善できる可能性があることを学んだので、共有しますね。
怒りの原因は?
私自身は、近年ほとんど怒ることがありません。でも、怒っている他人への対処方法は昔から苦手。今回の講座で、どういう思考から怒りが生じるのか、またそれにどのように対処するのかを少し理解できました。
仏教用語では怒りを「瞋恚(しんに)」といい、これは人間の煩悩のひとつになります。自分の欲望が満たされない場合に、人は煩悩に悩まされることになると考えられています。ちなみに仏教では、人間に五欲(財欲、性欲、飲食欲、名誉欲、睡眠欲)があり、これらが限度を超えると、私たちを苦しめるもとになる、と説きます。
つまり、怒りの原因も、これらの欲望に基づくと考えられるわけです。
メカニズム
講座で取り上げられていた事例で、共感できたのは、名誉欲に基づく怒りの反応でした。例えば、自分は頑張っているのに、周りから評価してもらえていないと感じる人は、ストレス度が高まり、怒りが他人に向かいがちになるのです。承認欲求が満たされていない状態です。
このメカニズムを理解することで、問題解決への糸口を見つけられます。
腹を立てている人への対処
怒っている時は、心が傷ついた状態にあるため、その傷の手当を優先する必要があります。自分が自覚できる場合は、「自分の何が傷つけられたのか」を考えてみます。
また他人が怒っている場合、相手の気持ちを聴いてあげることで、本当はどうしたかったのか、どうなりたかったのか、という気持ちを確認できる場合があります。相手が、自分を受け止めてもらえたと感じれば、相手の心の傷が癒せる可能性もあります。
正義中毒
「自分は絶対に正しい、相手が間違っているのだから、自分の言うことを聞くべきだ」このように正義を振りかざして怒る人もいます。このような人たちを正義中毒と呼ぶらしいのですが、こういう人はメタ認知ができていないタイプなので厄介です。
双方が正義中毒に感染していると、話し合いも平行線でしょう。
しかし自分が冷静に、相手がこのタイプだと判断できれば策はあります。
このタイプは、自らが正しいことを認めてほしい、評価されたい、という承認欲求から行動している人が多いと思われます。だから相手の自尊心を傷つけないように対話ができれば、建設的な着地点が見つけられるかもしれません。(できるだけ、こういう人とは関わり合いになりたくないですが)
日本最初の成文法17条憲法の第10条には「自分は必ず聖人で、相手が必ず愚かだというわけではない。皆ともに凡人なのだ」と書かれています。約1400年前から人間は、あんまり成長していませんね。
用語・参考資料
しん‐に【瞋恚】〔「しんい」とも〕
“しん‐に【瞋恚】”, 例文 仏教語大辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-12-30)
三毒・十悪などの一つ。自分の心に違うものを怒りうらむこと。怒り。
さん‐どく【三毒】:貪欲とんよく(むさぼり)と瞋恚しんに(いかり)と愚痴(おろかさ)の三つ。また、婬いん・怒ぬ・痴ということがあるが、そのときの婬は貪欲の意。
“さん‐どく【三毒】”, 例文 仏教語大辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-12-30)
【五欲】財欲・色欲・飲食欲・名欲・睡眠欲の五つの欲望。
“ご‐よく【五欲】”, 例文 仏教語大辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-12-31)
十 (とお) に曰はく、忿 (こころのいかり) を絶ち、瞋 (おもえりのいかり) を棄てて、人の違 (たが) ふことを怒 (いか) らざれ。人皆心有り、心各 (おのおの) 執 (と) れること有り。彼 (かれ) 是 (よみ) すれば我 (われ) は非 (あしみ) し、我是すれば彼は非す、我必ず聖 (ひじり) に非 (あら) ず、彼必ず愚 (おろか) に非ず、共に是凡夫 (ただひと) ならくのみ。是 (よ) く非 (あし) き理 (ことわり) 、詎 (たれ) か能 (よ) く定 (さだ) むべけむ。相共 (あいとも) に賢 (かしこ) く愚なること、鐶 (みみかね) の端 (はし) なきが如し。是を以て、彼 (かの) 人瞋 (いか) ると雖 (いえど) も、還 (かえ) りて我が失 (あやまち) を恐れ、我独り得 (え) たりと雖も、衆 (もろもろ) に従ひて同じく挙 (おこな) へ。
“十七条憲法”, 日本大百科全書(ニッポニカ), JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-12-30)
【現代語訳】心の怒りをなくし、憤りの表情を棄て、他の人が自分と違っても怒ってはならない。人それぞれに心があり、それぞれに思いや願いがある。相手がこれこそといっても自分はよくないと思うし、自分がこれこそと思っても相手はよくないとする。自分は必ず聖人で、相手が必ず愚かだというわけではない。皆ともに凡人なのだ。これがよいとかよくないとか、だれが定め得るのだろう。互いに賢くもあり愚かでもあり、それは耳輪には端がないようなものだ。相手が憤っていたら、むしろ自分に間違いがあるのではないかと恐れなさい。自分はこれだと思っても、人々の意見を聞き、一緒に行動しなければならない。◆解説…聖徳太子は自己主張をし、それが受けいれられないと怒ることで争いが起き、国家大乱の原因となる、と戒めた。
十七条憲法(原文・現代語訳・解説・英訳)
聖徳太子制定と伝える日本最初の成文法。『日本書紀』推古 (すいこ) 天皇12年(604)4月戊辰 (つちのえたつ) 条に、初めてその全文が登場する。それによると、「皇太子、親 (みずか) ら肇 (はじ) めて憲法十七条を作りたまふ」とある。皇太子とは、聖徳太子をさす。ここにいう憲法は、近代国家のそれと違い、遵守すべき道徳的規範に近い。すべてで17条からなる漢文体形式の憲法には、儒家・法家・道家、それに仏教の思想が盛り込まれており、中国古典を間接・直接に採用しながら、君・臣・民の上下秩序がさまざまな観点から説きほぐされている。とりわけ、臣のあり方に力点が注がれて、中央豪族の新たな心得を諭 (さと) した観が強い。
“十七条憲法”, 日本大百科全書(ニッポニカ), JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-12-31)
《metaは、より高次の、の意》認知心理学の用語。自分の行動・考え方・性格などを別の立場から見て認識する活動をいう。
“メタ‐にんち【メタ認知】”, デジタル大辞泉, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2020-12-31)