マスクをしないと入れなくなったスーパーマーケットで、レジの行列に並びながら、カミュの「ペスト」をスマホで読んでたんだけど、ああ、わたし、たぶん、この感じはずっと長く覚えてるんだろうな、ってふと思った。
2020年3月16日にフィリピン政府からアナウンスがあって、マニラは3月17日(火)から4月14日(火)までEnhanced Community Quarantine (ECQ)を実施されることになった。
インフルエンザの一種であるコロナ・ウイルスの新種が中国で発生し、感染者と死者が増加しているのを他人事のように思っているうちに、みるみるうちに世界中に被害が拡大していくなか、まだまだ発展途上で、貧富の差が激しく、医療体制も脆弱なフィリピンは、大統領が強権を発動したと言われているけれども、中国のような事態に陥るのを避けるため、わりと早い段階で、思い切った政策を打ち出し、首都圏をロックダウンし、人の移動を制限した。
生活必需品を取扱っているお店や、医療、通信、銀行など特定の業種しか営業は認められず、公共交通機関はストップし、いろいろなことが制限されるようになった。
おそらく、居住している市や地区によって、状況はずいぶん異なって見えるだろう。これを書いている今は、ロックダウンが開始されて18日目。私の住んでいる場所では、ジョギングをする人や、犬の散歩をのんびりする人もいるし、みんながマスクをしている異様さを除けば、休日の朝ような平和な静けさがある。
人が少なくなり、走っている車もまばらになったおかげで、小鳥の声がとてもよく聞こえる。
空気が澄んで爽やかになったのは、ECQが始まって2~3日で気づいた。人間は目に見えないウイルスに戦々恐々としているけれど、鳥たちは喜んでいるような気がする。
本当にあと11日でECQが終わって、経済活動を再開できるのか、状況次第で、延長もあり得るという噂話も聞いたし、天気だけはやたらに良くて、めちゃくちゃ行楽日和なのに、どこにもいけなくてストレスがたまる、という声も聞いた。
わたしは、というと、コロナ後に世界がどんなふうに変わるのか、そちらばかりが気になっている。
これ(Yuval Noah Harari: the world after coronavirus)を読んだからかもしれないし、最近メンバーに加えてもらった投資家コミュニティの皆さんが、現在の経済状況を論理的に過去の状況と比較して分析し、未来予測を行おうとしているのを、こっそり眺めているせいかもしれない。
あるいは私の場合、普段から、付き合う人もニュースも、自分で決めた本当に最低限の数にしか触れないようにしているので、単純に視野がせまいってだけなのかも。
ただ、わたしの人生指針のひとつに「スタンピードに巻き込まれないこと」を掲げていて、さらに「スタンピードを止められる人になる」のが、かなり高い位置での目標だったりする。死ぬまでに何とかなんないかな、くらいの。
だから、みんなが同じ方向をむいて、同じ恐怖に震えているとしたら、そのなかに踏み込んでいくのはできるだけ避けて、もっと全体を俯瞰できる場所を探す努力をしなきゃ、と考える。
これは、ひとに説明するために考え出した後づけの理由で、本当のところは自分でも良く分からないのだ。
自分でもびっくりするほど、現状に不安を感じないので、そのことが不思議だ、と友人に伝えたら、「あなたは生存欲求がないからね」と返信がきて、その返信を見た瞬間に爆笑しつつ「あるよ」と思わず独り言をいったのだが、確かに周囲を見回してみると、人並以下であることは、間違いがなさそうだ。
生存欲求の話、面白そうなんで、もうちょっと考えてみたい。