読書感想8.1. ふとした気づき8. Trial&Error

気づいたら楽園にいた話(神曲 煉獄編)

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読書感想
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14世紀イタリアで大人気となり、現代でも読み継がれるダンテ・アリギエーリの「神曲」を読んでいます。地獄篇を読み終わり、いまは煉獄編を読んでいます。今回は、地上の楽園について、昨年2020年に自分が経験して感じたことをたな卸ししながら、考えてみました。

ロックダウンで感じた楽園

2020年3月に、いきなりフィリピン政府から外出禁止令が出て、公共交通機関がストップし、レストランや大型商業施設が閉鎖され、薬局やスーパーマーケットなど生活必需品関連のお店しか営業していない状態になったとき、大きな声ではいえませんが、私は楽園を感じていました。

車の排気ガスと騒音が消え、空気がきれいで静かになって、鳥のさえずりがよく聞こえるようになりました。マニラ湾の水が透き通り、水泳ができるほど劇的に改善されたことも話題になっていました。街中から人気がなくなり、スーパーマーケットは入店制限され、人々の行列ができていたけれど、私は食品や生活必需品を買えないほどの状況ではありませんでした。

ゴーストタウンのようになった街をみて、どこにも行けなくなったことを嘆いてばかりいる友人と話すことにうんざりしながら、私自身は、どうせ長くは続かないと(その時は)楽観的に考えて、外界から安全に隔離されている不思議な感じを楽しんでいました。

当時は、なぜ自分が、その状況を楽園のように感じていたのか、よく分かっていなかったのですが、この課題テーマを与えられてから、初めて世界大百科事典で「楽園」を調べてみて、なんとなく少し分かったような気になっています。

神話にみる楽園の5つの条件

人類が古代からイメージする楽園には洋上楽園と山中楽園の二大類型があって、基本的には次の5つの要件が含まれているわけですが、ロックダウン中に、この要件の半分以上に当てはまる環境にいる、と感じていたので、ちょっと極楽感覚があったのか、と気づきました。

各民族がそれぞれに抱き,発展させた楽園の神話や伝承は,おおよそ次の諸要件を含む。(1)その土地が囲われ守られていること。(2)外敵から遠くへだたり,もしできれば所在すら知られていないこと。(3)内部には食物,水など生命維持の手段が豊富であること。(4)気候温暖で,寒暑による苦痛からも守られていること。(5)男女の性的快楽も十分に保証されていること,である。

“楽園”, 世界大百科事典, JapanKnowledge, (参照 2021-01-26)

一方では、楽園に類似した概念としてユートピアも存在します。トマス・モア「ユートピア」では、「腐朽した現実世界から隔絶された島で、住人は,穏当な理性に従い、社会的な平等のもとで、原初的な自由を享受している」状態が描かれ、これが理想郷とされました。単に肉体的に満たされているだけでなく、知識の獲得や、人知の向上もユートピアの必須条件です。

煩悩さえなければ、そこは楽園

人類は地上のどこかに楽園が存在しているのではないか、という希望を持ち続けてきたけれど、ユダヤ教とキリスト教では、アダムとエバが追放された楽園に人類が戻ることは許されていないため、天国という、文明の成熟した都市(神の国)への到達を目指すという代替シナリオが用意されています。

ダンテは神曲で、地上の楽園を追い求めるのではなく、個人の信仰の内側にある楽園に到達することで、天国(神の国)に近づくことを描いています。私はキリスト教徒ではないのですが、たしかに自分の持っている煩悩を減らすことができて、心の平安を手に入れられたら、どこにいても、そこが自分にとっての楽園になんじゃないかな、という気はしています。

〈ユートピア〉の語をつくったT.モアの《ユートピア》(1516)は,古典古代文化とキリスト教を前提とはしつつも,時代の多様な刺激に対応するものであった。とりわけ中世末以来の政治的混迷に対しては,良好に統治された争闘なき国家を対置した。これに加えて,コロンブスの新大陸到達に始まった海の彼方の世界への期待と驚異が,直接的なかたちで投影されている。モアの〈ユートピア〉は,新世界に属する海洋中の島であり,腐朽した現実世界から隔絶されている。その住人は,穏当な理性に従い,社会的な平等のもとで,原初的な自由を享受している。人文主義や宗教改革など16世紀の精神と響和して,《ユートピア》は人間主義と原初志向とをうたいあげ,あわせて現実批判の鋭利な手段ともなりえたのである。

“ユートピア”, 世界大百科事典, JapanKnowledge, (参照 2021-01-26)
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