1924年(大正13年)に森鴎外が翻訳したオイレンベルクの「女の決闘」(原題『Ein Frauenzweikampf』Herbert Eulenberg)を読みました。ほんとに短いので10分くらいで読めます。
(青空文庫のこちらで読めます 「女の決闘」オイレンベルク )
ドイツ語の原文はこちら(Google Books)で読めます。「英国アート生活」さんのブログに詳しい情報があったのでドイツ語原文を見つけることができました。『Sonderbare Geschichten』(奇妙な物語集 / 10作品が収録されている)の目次を見ると、確かに『Ein Frauenzweikampf』が収録されていました。P.131~
Googleブックスならドイツ語でも読める
私はドイツ語が読めません。でもGoogleブックスでは読みたい部分を手動で選択すると自動で翻訳してくれるようになっていて感動しましたよ。以下は原作の冒頭部分のコピペです。これをGoogle翻訳したものと鴎外訳を少しだけ比較してみたのですが、Google翻訳でも十分意味が分かるので、またビックリしました。
Diere unerhörte und noch niemals zuvor geschehene Begebenheit hat
『Ein Frauenzweikampf』Herbert Eulenberg
diese kurze Vorgeschichte Un Abend als die russische Studentin der
Medizin irgendeiner gelehrten Vorlesung in ihre Miets gekommen war
fand fie den folgenden Brief auf ihrem Tische liegen der obne jede
Anrede begann Ich habe durch Zufälle die neben der Sache relbst
gleichgültig sind von Ihren Beziehungen zu dem Manne dessen Frau ich
bisher zu sein glaubte erfahren rechne damit daß Sie jemand sind der
stets bereit für die Folgen seiner Taten einzutreten der keinem der
ihn nie gefränkt hat ohne weiteres Bes antut für die er fich nicht
selbst zu jeder verantwortlich erklärt Ich habe gehört daß Sie Pistole
schießen Wie Sie dies Handwerk auch ver Sie werden es jedenfalls
besser ausüben als der ich bisher nie eine Waffe geführt habe.
以下がGoogle翻訳されたものです。
この前代未聞の出来事には、この短い前例があります.
夕方、ロシアの医学生が学んだ講義から彼女の部屋に来たとき、彼女は次の手紙がテーブルに横たわっているのを見つけました.私があなただと思っていた妻の男性との関係に無関心である.
私はあなたが彼の行動の結果に対して常に責任を負う準備ができている人であり、彼を怒らせたことのない人を責めない.彼は自分自身を責めません誰もが責任を持って宣言しますあなたがピストルを撃つと聞いたことがありますが、この取引を練習すると、私が以前に武器を使用したことがないよりも確実にうまく練習できます.
以下が森鴎外訳です。
古来例のない、非常な、この出来事には、左の通りの短い行掛りがある。
ロシアの医科大学の女学生が、ある晩の事、何の学科やらの、高尚な講義を聞いて、下宿へ帰って見ると、卓の上にこんな手紙があった。宛名も何も書いてない。「あなたの御関係なすっておいでになる男の事を、ある偶然の機会で承知しました。その手続きはどうでも好い事だから、申しません。わたくしはその男の妻だと、只今まで思っていた女です。わたくしはあなたの人柄を推察して、こう思います。あなたは決して自分のなすった事の成行がどうなろうと、その成行のために、前になすった事の責を負わない方ではありますまい。またあなたは御自分に対して侮辱を加えた事のない第三者を侮辱して置きながら、その責を逃れようとなさる方でも決してありますまい。わたくしはあなたが、たびたび拳銃で射撃をなさる事を承っています。わたくしはこれまで武器というものを手にした事がありませんから、あなたのお腕前がどれだけあろうとも、拳銃射撃は、わたくしよりあなたの方がお上手だと信じます。
「女の決闘」オイレンベルク 森鴎外訳
オイレンベルクのこの作品は、妻コンスタンチェの視点からのみ描かれ、浮気をした夫、その愛人である女学生の心情はまったく描かれていません。その点に不満を持った太宰治が、この作品を彼の解釈でアレンジして新しい作品を作っています。それも青空文庫で読めます。(ただ、そちらは、太宰が彼の想像力を持って色々と情報を盛り込んだり、原作者へのリスペクトや言い訳も書き込んでいるため、もっと長い作品になっています。)
両方を読み比べると、太宰治の「女の決闘」は、いかにも太宰らしい作品にアレンジされています。夫を作家のオイレンベルク自身ではないか?と勘ぐって、そこから物語を再構築していく過程も見せてくれるので、2倍楽しめました。
1作品が無料公開中
オイレンベルク・ヘルベルトの作品は青空文庫で1作品が無料公開されています。アマゾンでは、森鴎外訳の「決闘」(青空文庫と同じ)と「塔の上の鶏」(「めそめそしてても、いいじゃない?」というアンソロジーに収録)がありました。
参考
書誌情報・鴎外と太宰の比較対照表(埼玉大学 八木研究室)
オイレンベルク Eulenberg, Herbert 1876.1.25~1949.9.4 ドイツの作家.1920年代にドイツの劇場で最もよく上演された演劇台本作家の一人.平和主義のゆえにナチス時代は作品が上演・出版禁止になった.シラー賞 [13] .第二次大戦後はH.ハイネの伝記《Heinrich Heine, 1947》によってハイネ賞を受賞 [48] .〖著作〗Belinde, 1913(戯曲).
“オイレンベルク(Eulenberg, Herbert)”, 岩波 世界人名大辞典, JapanKnowledge, (参照 2022-08-03)